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[中国会計税務レポ] 企業関連者間取引の特別調整 – 中国の移転価格税制の概要(1)

 「BEPS(税源浸食と利益移転)」対応強化の一環として昨年6月に国家税務総局から移転価格に関する資料作成に関する公告が交付され、企業所得税の年度確定申告時に提出する関連者間取引の報告書において作成しなければならない附表が増加するなど、企業の関係者間取引に対する一層の対応強化が求められています。

1. 中国の移転価格税制

移転価格税制とは、所得の国際間の移転により税が他国に流出することを防ぐことを目的に設けられた制度です。
2008年1月1日に施行された現行の中国の企業所得税法では「特別納税調整」の章が設けられています。ここでは、企業と関連者(注1)間の取引は独立企業間取引の原則(注2)に基づいて行われることが求められており、関連者間の取引がこれに抵触することにより納税額または課税所得が減少した場合には、税務機関が合理的な方法でこれを調整する権限を有するとし、移転価格税制が適用されることを明言しています。なお、この章においては移転価格税制の他、関連者間の費用分担、事前確認制度、企業年度関連業務往来報告表および同期資料の作成・提出、タックスヘイブン(租税回避地)対策税制、過小資本税制などの関連者取引にかかわる事項が定められています。
特別納税調整については、2009年に事務処理ガイドラインとして『特別納税調整実施弁法(試行)』(国税発[2009]2号 [1])が公布されましたが、後述するBEPS行動計画への対応として昨年6月に『関連者間取引申告と同時文書の管理に関する公告」(国家税務総局公告2016年42号)、12月に『事前確認制度の管理の最適化に関わる事項に関する公告』(国家税務総局公告2016年64号が公布され、その一部(注3)が改正されています。

(注1) 関連者には、資本関係が25%以上の親子関係、兄弟関係の他、

(注2) 関連関係のない取引者双方が公正な取引価格および商習慣に基づき業務上の取引を行う場合に遵守される原則で、

(注3) 2号弁法(全十二章)のうち、42号公告では第二章と第三章及び74条と89条、16号公告では第六章が廃止されました。

2. BEPS行動計画

BEPSとは、Base Erosion and Profit Shiftingの略語で、日本語では「税源侵食と利益移転」、中国語では「税基侵食和利潤転移」と表記されます。近年の多国籍企業による活動実態と国際間の税制の相違点や国際課税ルールとの間の不整合を利用しての二重非課税など、過度な税負担の軽減を図る状況を生み出している状況に対処するため、経済協力開発機構(OECD)による共同プロジェクトが進められ、BEPSに対処すべき重点分野15の行動計画が公表されています。うち「BEPS行動計画13」とは、多国籍企業の企業情報の文書化(Guidance on Transfer Pricing Documentation and Country-by-Country Reporting)で、業務執行の透明性を高めるために多国籍企業に共通様式による移転価格文書の作成を求めるものです。最終報告では国別報告書、マスターファイル、ローカルファイルの三層構造による移転価格文書の作成が求められています。