お金の管理
[お金の管理] (5)債権管理
日系企業にとって、海外の子会社と日本の子会社との間で管理上決定的に異なる点があるとすれば、それは外貨を扱う点ではないでしょうか?ほとん どの日本の会社は円建て取引のみですが、海外子会社ともなると複数の通貨建て取引があることが通常です。そのため債権管理を行う上でも、日本で使用してい た社内管理用資料がそのまま使えないため、各社独自で複数通貨建てでも対応できるように工夫しているのが現状だと思います。
そこで今回は、複数通貨建ての債権管理を行う上でのポイントを説明したいと思います。
まず債権管理とは、①各得意先別に、②その月の売上高、③その月の入金額、④その月末の債権残高、を把握するための管理です。売上高は会社にとって存在意義そのものとも言うことができますし、実際に入金がないと大事な商品やサービスをタダであげたのと同じですので、この管理が会社にとって非常に重要になるのは一目瞭然かと思います。
具体的には、得意先別に表1のような得意先元帳を作成することになります。
(表1:4月度)

表1はこの4月に新しく事業を始めたという前提ですので、4月度では売上しか計上されていません。1~3までの売上があったのみで、入金はゼロ、従って売上金額がそのまま債権残高になっているという非常に分かりやすい例です。
まずこの基本イメージを理解して、5月度のものを見てみましょう。
(表2:5月度)

実は5月度にはいろいろなケースが含まれています。それぞれ個別に見ていきましょう。
(1)入金消し込み
1と2の売上については、5月中に入金があったので入金情報に記入します。その際に、日付と入金銀行を記入しておくと、該当するバンクステイトメントが簡単に見つかります。一方、預金出納帳の方では「X社:#2007040001」というように、得意先名と該当するインボイスナンバーを記入しておけば、得意先元帳と預金出納帳で相互に消し込みが確認できますので、管理はより正確になります。
(2)4月に計上が漏れていた売上があった場合
7の売上は4月20日付けの出荷(同日請求)ですので、本来であれば4月度の管理表に入れておかなければならないものでしたが、4月度を締め切って記帳も終わり本社へも報告が終わった後に分かったものでした。このような場合にはいくつか方法がありますが、一番簡単なのは既に締め切った4月分は一切いじらず、まだ締め切っていない月分として処理することです。月次でみれば正確ではありませんが、既に記帳や報告した数字を後から簡単に変えられるということになると、どれが最終版か分からなくなったり本社に正確な情報が伝わらなくなったりするなど多々悪影響もあるため、「締め切った月分はもう変更しない」とルールを決めた方が望ましいと思います。
(3)売上返品等のキャンセルがあった場合
3の売上は返品されたため、売上も取り消さなければなりません。このような場合、6のように取り消しが分かった時点で売上取り消しを記入します。同月内であれば何も記入しないということでも構いませんが、4月分を締め切った後であれば(2)と同じ理由で「締め切った月分はもう変更しない」とルールを決めた方が望ましいと思います。また、入金情報にも対応する取引番号を記載して取り消しの情報を記入することになります。
そして複数通貨建ての債権管理のポイントなのですが、「取引通貨建て」で①各得意先別に、②その月の売上高、③その月の入金額、④その月末の債権残高、を管理するということに尽きます。表を見ればお分かりですよね?
ところが、日本で作成した得意先元帳を応用したばかりに、記帳レートや銀行レートでその都度換算した後の金額で作成している例も多いのです。このやり方ですと、実際の取引通貨建ての債権額は別途集計しなければならないので非効率ですし、手間がかかる割にそもそも本来の債権管理の目的の達成が難しくなっています。
これまで6回に渡り経理のポイントを解説してきましたが、「お金の管理」について少しでも参考にしていただける点がございましたら筆者として喜ばしい限りです。
[お金の管理] (4)資金管理
今回は「お金の管理」の中でも一番重要なテーマです。さて、総経理として一番重要な「お金の管理」とは何でしょうか?あまりに基本的なことですので、普段は担当者に任せきりで軽視しがちなのですが、最も大切なのは「資金繰り」です。
会社は利益を上げることが使命ですが、まずは倒産しないということが大前提となります。倒産しないためには利益を上げていればいいんだろうと思われますが、実は損益は倒産には直接関係しません。例えば、不動産会社をイメージしてください。この会社は前期最高益を計上し、会社の業績には文句の付け所はないとしましょう。しかし、ある時点から銀行が借入金の借り換えに応じてくれなくなったら、どうなるでしょうか?不動産会社ですから、当然多額の借入金があります。業績も良いのだからこれまで通りに借り換えに応じてくれるものだと思っていたところに「現金で返済してくれ」と言われたら、その返済資金を短期間に準備できない限りは倒産せざるを得なくなります。これはこのところよく日本で起きている現象ですが、このような業績に問題がない会社でも、業績以外に問題があったり経済情勢が急激に変わったりした場合には、実際に銀行が借り換えに応じてくれないばかりか他に貸してくれるところも現れない、ということが起き得るのです。逆に今度は、スナックをイメージしてください。このスナックは客の入りも悪く、毎月大幅な赤字を続けています。しかし、このスナックはどんなに赤字を出していようと、資産家のスポンサーがいる限りは倒産しません。
このように、倒産に業績は間接的に関係してきますが、あくまで直接的に関係するのは「支払資金が無くなる」ことなのです。
さて、それでは支払資金が無くならないように管理するためには、どのようにしたらよいでしょうか?方法としては、短期的には具体的な資金繰り表の作成、中長期的には大局的な資金計画表の作成が管理上有効です。
【短期的な管理 – 資金繰り表】
銀行口座別に、毎日の出金予定と入金予定を入力した表を、一般的に資金繰り表と言います(表1)。
(表1)

この表を作成する目的は、短期的に支払資金が無くならないように管理することです。例えば、預金の合計額では残高がプラスであったとしても、口座別にみると残高がマイナスとなる口座が1つでもあったら、それは支払資金が足りていないということですので、別の口座から送金手続をしなければなりません。
このように、どの口座も間違っても残高がマイナスになってはいけないことから、出金予定と入金予定はできるだけ正確に見積ることと、また予期していなかった突発的な出金や入金の遅れに備えて、ある程度の余裕残高を残しておくことが重要です。
一方、短期的な管理目的であることや、何ヶ月も先まで正確に入出金額の見積りを行うはできないことから、常におおよそ3ヶ月程度先まで更新しておけば目的は達成できるはずです。
【中長期的な管理 – 資金計画表】
毎月、どのような理由によりどの程度の入出金があるのかをまとめた表を、一般的に資金計画表と言います(表2)。
(表2)

この表を作成する目的は、中長期的に支払資金が無くならないように管理することです。
つまり、この表で言えば2行目の「預金残高」がどのくらいあるかということをできるだけ正確に把握することがポイントです。
この例として作成した資金計画表では、08年4月から新規に事業を開始した貿易会社を想定しています。また、売掛金・買掛金ともに支払条件は、締め後1ヶ月払いとし、借入金は毎月HK$100,000ずつ返済するものとしています。
この表を作成する上で一番気をつけないといけないことは、当たり前と思われるかもしれませんが、実際の入出金額の見込みを入力しなければならないことです。例えば、普段見ている損益計算書の売上金額と実際の入金額には差があるという点を見落としがちです。この例では、入金条件が締め後1ヶ月払いですので、入金は売上月より1ヶ月遅れることになります。また、実際には得意先ごとに条件が異なるはずですので、主要な得意先の入金条件を考慮しないと正確な資金計画表は作成できません。
また、当然の性質として、通常は売上に先立って仕入があります。仕入れてもすぐに売れるわけではなく、在庫として保管されている期間もあります。従って、ほとんどの場合、入金よりも先に出金がきます。この例では、損益で見ればおそらく利益は計上しているはずですが、仕入と売上の時点の差の分だけ、資金収支は一時的に悪化しています。
この表は中長期的な管理目的であるため、通常はおおよそ1年程度先まで作成します。つまり、おおよその損益の見込みが立っている時点まで作成し、投資計画などと合わせて検討を行うことによって、その実現のためには手許の資金で足りているか、新たな借入が必要なのか、買掛金の支払い条件を延ばしてもらうことによって対応できるか、などいろいろな資金繰り上の対策を前もって行うことができるわけです。
このように資金繰りは重要ですので、会社の管理状況を念のため確認してみてください。
[お金の管理] (3)損益管理
「あなたの会社は今年どのくらい儲かりそうですか?」このような質問を華南地方の総経理の方にすると、多くの場合で実績より多めの金額で回答が返ってきます。もちろん自分の会社を良く見せるため、ということであれば問題はありませんが、これが正直な回答であるならばいささか問題です。正しい意思決定を行うためには、正しい現状認識が前提となるのは言うまでもないからです。
同じ質問を日本の社長にしてみたら、どうでしょうか?もちろん社長によって回答にばらつきがあるのは当然ですが、私の経験から言えば、華南地方で質問した場合よりも実績に近い回答が多く得られると思います。つまり、日本の社長のほうがより正確に現状認識しているという感じがします。
このことを私なりに分析しますと、以下のようなことが影響しているのではないでしょうか。
1. 全ての損益を考慮していない
上場企業の社長は最終利益に対する責任を負い、上下いずれに振れても修正発表をしなければなりません。また、オーナー企業の社長であれば会社の利益は自分の財産に直結するため、最終的にいくら残ったかについて強い意識を持っています。いずれにしても社長ともなれば常に最終損益がいくらになるかについて注意を払っています。一方、総経理として赴任する方の多くは、売上総利益については強い管理意識がありますが、販管費・営業外損益・特別損益と損益計算書の下にいくに連れて管理意識が低くなる傾向があるように思います。従ってこのような費用については期中ではあまり意識していないので、決算時になるまで見込みに入れていないことが多いと考えられます。
2. 会計資料に対する理解の難しさ
日本では会計資料は当然日本語で作成しますし、制度的な背景も分かっているので理解しやすいです。一方、華南地方では正式な会計資料は英語または中国語で作成されていますので、実績をタイムリーに正確に理解することはおろそかになってしまいます。従って、どうしても期中は自分で理解している売上まわり中心の思考になりがちです。
会社のお金を増やすためには、まずビジネスの現状を正確に理解することが土台となります。その上で、この費用は削れそうだとか、売価を改定しなければ採算が合わないので得意先と交渉が必要だとか、いろいろ知恵を振り絞ることでお金を増やすための対策が打てるのです。
つまり総経理としてその腕を最大限生かすためには、まずその土台をしっかり作っておくことが必要になります。ただしこれは難しいことではありません。以下の三原則をきっちり守れば、自ずと損益管理のヒントが得られるはずです。
1. 月次で実績管理して、月次推移表を作成する
ある一定期間の実績を並べて過去のトレンドを理解し、それをもとに過去の吟味と将来の予測をすることは損益管理の一つの有力な方法です。例えば決算書は年次で作成しますが、全く知らない会社であってもこれを何年か分並べるだけで、その会社の問題点や将来性についていろいろなイメージが出てきます。ただし一年単位のデータでは細かい分析はできませんし、最新のトレンドも見過ごしてしまいます。そこで経営に役立てるためには、短い単位で最新の情報を並べることが有効です。
原価管理などは毎日の積み重ねなので日次で行った方がより効率的な結果を得られる場合もありますが、経営者の役目は細かい改善点ではなく大きな改善点を見つけることです。従って、経営管理として最も有効なのは、月次でしょう。
そして過去12ヶ月分の月次損益計算書を月次推移表として作成してください。この表を一覧するだけでもいろいろと気づきがあるはずですが、対前月比と対前年同期比である程度増減している項目については、必ずコメントを残しておくことをお勧めします。増減には必ず理由があります。分からないままにしないで必ず答えを出すようにすることで、気付いていなかった現実が見えてくることにもつながります。
2. 予実管理を行い予算の正確性を高める
おそらくほとんどの会社では月次予算を持っていることと思います。そして予実管理も実際に行われていることでしょう。ただ実際の運用をみてみると、分析が甘いケースが多々見受けられます。予算を策定する時点では個々の積み上げは不十分であるため、前年度実績を単に月割りしたり期待している水準として策定せざるを得ないケースが多く、この数字と単純比較したのでは即効性のある改善策は生まれません。つまり、予算を策定したときの前提を考慮した上で実績と比較しないと、意味のある分析にはならないのです。
従って、必ず予算数字の意味合いを考えながら実績と比較してみてください。予実管理は予測が合理的であって初めて意味を持つものです。これを続けることによって翌年度の予測もより正確にできるようになりますし、合理的な予測と実績との差異を調査することによって新しい気づきが得られるからです。
3. 全ての損益項目を考慮する
会社が儲かったかどうかは、税金を支払った後の金額の多寡で決まります。そのため、営業利益を計上していても多額の固定資産除却損や棚卸資産評価損を計上した結果税引後純利益がマイナスになってしまっては、その会社は儲かっていないのです。
これらの特別項目は年度末だけ関係してくると思いがちですし、原因が発生してからだいたい数年間のタイムラグがあることも多いため軽視されがちですが、あくまでこれらは期中の経営の結果として表れてくるものです。
例えば売れ行きが鈍ってきている製品があったとしましょう。その時点では予算通りに生産を続けても在庫として計上されますので、月次損益上は売れ行きが悪かろうが関係有りません。在庫はもう売れないと分かった時点で費用計上されますので、当たり前ですが作りすぎた分の在庫はいずれは会社の利益を減少させることになります。従って、経営者としては売れ行きが鈍ってきている時点で十分な検討と生産量の調整を行って、在庫を作りすぎないようにしなければならないのです。ただし、営業損益だけを気にしているのでは、この失敗を何度でもしてしまいます。評価損を計上するのは数年後ですし、特別損失として計上することによりこの経営責任が不明瞭になってしまうからです。このように、常に会社の最終損益を頭に入れて経営をするということは会社の損益を管理する上で最も重要なことだと思います。
[お金の管理] (2)為替管理のポイント-2
前回は仕入の例で取引時点の為替レートと決済時点の為替レートの差による為替差損について説明しました。また、為替差損を少なくするための基本的な考え方についてもお話しましたが、まずはその応用編です。
- 買掛金の場合には支払を早めると資金繰り上望ましくないという話にもなりますが、売掛金の入金時期を早めることができれば、資金繰り上でも為替対策上でも望ましい結果になりますので一石二鳥です。
- 現在の人民元のように一本調子で上昇を続ける通貨建てでの取引については、仕入は早く支払い、売上は遅く回収した方が有利です。ただ売上を遅く回収するなんて現実的ではありませんので別の方法を示しますと、早く回収した後そのまま人民元で持っていても同じ損益になります。
- 人民元建てや日本円建てで仕入れて、US$建てやHK$建てで売り上げる営業形態ですと、現在のドル安局面では為替差損は避けられません。つまり、強くなっている通貨建てで仕入れて弱くなっている通貨建てで売るビジネスモデルは、為替対策上、最悪です。
このように応用してみるといろいろ考えさせられると思いますが、今回の最後にスッキリさせたいと思います。
さて、もう一つの為替差損益の発生原因として、(2)期末時点の外貨建債権債務の評価替え、があります。これは会社によっては損益に大きなインパクトがあるのですが、その性質上予測ができないものですから予算に織り込むことができず、決算してみてビックリ、ということになります。
こちらの計算方法は至って単純です。外貨建ての売掛金や買掛金、借入金は全て取引時点の為替レートで帳簿上計上されているのですが、期末にはその為替レートを見直し、期末日レートで評価替えする、というものです。参考までに図表1をご覧ください。
(図表1)
| 仕入時点 | 期末時点 | 決済時点 | |
|---|---|---|---|
| 仕入金額(円建て) | 1,200,000円 | ||
| 記帳レート(社内レート) | 120円/US$ | ||
| 決済レート(銀行レート) | 110円/US$ | 100円/US$ | |
| 仕入金額(US$建て) | 10,000US$ | ||
| 支払金額(US$建て) | 10,909US$ | 12,000US$ | |
| 為替差損(US$建て) | 909US$ | 1,091US$ |
つまり、いったん期末時点で外貨建債権債務を全て決済したと仮定した場合、為替差損益はいくらになるか?という計算を行うわけです。このとおり理屈は簡単なのに、なぜ損益にそんなにインパクトがあるかというと、外貨建債権債務の残高がどうしても大きくなってしまうからです。売掛金や買掛金にしても普通2か月分以上の売上・仕入相当の金額が残高となりますし、借入金にしても多額となることが普通ですから、多少の為替レートの変動でも計算すると大きな金額になります。また、誤解しやすいのですが、現預金も金銭なので対象となる一方、棚卸資産は債権債務ではないので対象外です。
この為替差損益を避けたいのであれば、外貨建取引をやめるしかありません。と言ってしまっては身も蓋もないので、取引通貨を何建てで行うべきなのかについて私見を述べたいと思います。この問いに対する答えが、これまで説明してきた為替差損益の問題に対する根本的な解決策に直結してくると考えています。
まず、日本企業であれば、「お金を増やす」ことを考えた場合、その前提として円を増やすことを想定しています。日本企業が経営してお金を増やし、株主に還元する場合には円で配当します。つまり、最終的に円が増えないことには投資が成功したとは言えないのです。そのため、日本企業はできることならば全て円建てで取引したいのです。
しかし、日本企業の海外現地法人が全て円建てで取引できるでしょうか?他の通貨圏でビジネスをする以上、それは無理な相談です。取引先との力関係やその国の規制、取引の性質によって使用できる通貨は限られてきます。
ただ、いくつかの通貨の中から選択できる場合、どのような通貨を選ぶべきでしょうか?まずは円といつでもほぼ同じような為替レートで換金できる、安定した通貨を選ぶべきでしょう。そのため、これまでは国際通貨として最も安定していた米ドルが利用されてきました。しかしここ数年の下落をみると、安定感が従来に比べてぐっと減ってきているように感じます。一方、円に対して価値の上がっていく通貨はどうでしょう?企業グループ全体として見た場合、円に対して強くなっている通貨を貯めていけば、最終的に円換算した場合円が増えることになります。つまり、企業グループ全体で、円に対して強い通貨を稼ぎ、弱い通貨で支払っていけば、企業グループ内に円が増えて残ることになります。円に対して強い通貨は持っているだけで円を増やしますし、弱い通貨は持っているだけで円を減らすということを十分に認識する必要があります。もちろん、強い弱いは企業と関係なく変動するものですから、為替動向をウォッチして臨機応変に手を打っていかなければなりません。これは現地法人の採算自体にも大きな影響を与えるものですから、経営者として必要なことです。
また、このことを十分に理解すれば、親会社からの円建て借入金から発生する現地法人の為替差損益がいかに多額でも、グループ全体からすれば全く無意味であることがお分かりになると思います。日本本社はグループ全体の損益管理を全て円建てでしていますが、円建てで連結すればこの為替差損益は相殺されるので、円で換算した損益への影響はゼロになってしまうからです。
このように、前回説明した現地法人だけで管理できる為替差損益もある一方、企業グループ全体として「お金を増やす」もしくは「お金を減らさない」という観点から考えなければならない為替差損益もあります。意外にも為替が会社のお金に深く関わっていることをご理解いただけたでしょうか?
[お金の管理] (2)為替管理のポイント-1
漠然としている「経理」という表現ですが、要は「お金の管理」ということです。前回はまず現金・預金の管理のポイントについてお話しました。
おそらく「経理」と言えば現金・預金の管理が重要な仕事の一つだろう、ということは容易にイメージできますので、内容も違和感なく理解できた ことかと思います。ただ逆に言えば、他にどのようなイメージをお持ちでしょうか?請求書などを集めて入出金の記録をする、というイメージが強すぎて、その 他についてはイメージがわかない方も少なくないのではないでしょうか?
ここで「お金の管理」として捉えてみて下さい。現金・預金の管理は「現在あるお金を正確に安全に」管理することを目的としていますので、確か にとても重要な管理なのですが、それ以上のものではありません。会社として、つまり総経理としての最大の目的は「お金を増やす」ことですよね?そう考えれ ば、他にやらなければならない「お金の管理」が頭の中に浮かんでくるかと思います。
今回から2回に分けて、その中の一つの為替管理を取り上げたいと思います。特にこの1年の間、為替を取り巻く環境は大きく変わりました。その 結果、利益が出ていると思っていたのに決算をしてみたら多額の為替差損が計上されていて、思っていたよりもずっと利益が少なくてビックリした、というよう な経験をされてはいませんか?なんとなく為替レートの変動が影響しているということを理解していても、ただ為替差損という表示で多額の損失が計上されてい ることに釈然としない思いをしておられる方が多いのではないでしょうか?特に華南地域では多通貨での取引が前提となりますので、総経理としては為替差損の 原因に対する理解を避けては通れません。為替差損は会社の営業とは関係ないにも関わらず会社の「お金が減った」ということを表しているのですから、この 「為替差損を減らす」ための管理が求められるわけです。
為替差損益の発生原因には、大きく分けて、(1)外貨建取引を行った場合、取引時点の為替レートと決済時点の為替レートの差、(2)期末時点の外貨建債権債務について、計上時点の為替レートと期末時点の為替レートの差、の二種類あります。今回はまず(1)について、その計算方法とその対策を話していきたいと思います。
(1) 外貨建取引を行った場合、取引時点の為替レートと決済時点の為替レートの差
ここでは円建ての仕入をUS$建てで記帳する場合をもとに説明します。
(図表1)
| 仕入時点(3月) | 支払時点(6月) | |
| 仕入金額(円建て) | 1,200,000円 | 1,200,000円 |
| 社内レート(記帳レート) | 120円/US$ | 120円/US$ |
| 銀行レート(決済レート) | 110円/US$ | 100円/US$ |
| 仕入金額(US$建て) | 10,000US$ | |
| 支払金額(US$建て) | 12,000US$ | |
| 為替差損(US$建て) | 2,000US$ |
まず仕入時点で記帳するためには、円建ての金額をUS$建てに換算しなければなりません。しかし実際にUS$建ての取引があったわけではないので、換算するためにはなんらかの仮定を置く必要があります。そこで、この場合の為替レートは原則としてその日の為替レートを用いることになっていますが、実際に毎日変更するのは実務的に非常に大変な作業なので、ある一定のレートを記帳レートとして社内的に設定することが一般的です。ここでは120円/US$だったとします。この場合の仕入金額は1,200,000円÷120円/US$=10,000US$に換算されます。つまり、この時点では買掛金は10,000US$として認識されることになります。
そして支払時点では、通常は銀行にあるUS$を実際に円に換金して支払われます。この仮定では仕入時点より円高に進んで100円/US$となっていますから、1,200,000円を送金するためには1,200,000円÷100円/US$=12,000US$必要です。仕入時点では買掛金10,000US$を想定していたにも関わらず、決済時点では12,000US$が実際に必要になったのですから、その差額の2,000US$は為替差損として認識されます。
さあ、これで計算方法自体は理解できました。それでは「為替差損」を減らすためにはどうしたら良いでしょうか?記帳レートと実際の決済レートとの差がなければ為替差損は発生しない、という切り口で考えてみて下さい。
①社内レートをその日の為替レートに近づける(=社内レートとして月末レート使用を推奨)
まず社内レートに注目してください。これは前述のとおり、その日の実際のレートではなく、社内的に設定したある一定のレートです。ある一定のレートとしては、月末レートや年末レートを使用することが実務上認められています。あまり変更しない方が記帳する上では楽なので、年末レートを使用しているところも結構あるのではないでしょうか?
しかし為替差損を減らすためには、年末レートでは望ましくありません。月末レートを使うべきです。その理由は単純明快で、毎月直近の為替レートに変更しておけば銀行レートとの差が少なくなるからです。さきほどの例で確認してみてください。仮に社内レートを110円/US$に設定していた場合には、為替差損は以前の2,000US$から1,091US$へと減少します。
(図表2)
| 仕入時点(3月) | 支払時点(6月) | |
| 仕入金額(円建て) | 1,200,000円 | 1,200,000円 |
| 社内レート(記帳レート) | 110円/US$ | 100円/US$ |
| 銀行レート(決済レート) | 110円/US$ | 100円/US$ |
| 仕入金額(US$建て) | 10,909US$ | |
| 支払金額(US$建て) | 12,000US$ | |
| 為替差損(US$建て) | 1,091US$ |
ただこの場合に注意して欲しい点は、費用の総額は変わらない、という点です。図表1の場合の費用総額は、仕入金額10,000US$+為替差損2,000US$=12,000US$ですし、図表2の場合の費用総額は仕入金額10,909US$+為替差損1,091US$=12,000US$となって一致しています。
しかし、為替差損という漠然とした費用として認識されるのではなく、為替の上昇による売上原価の上昇として認識されることは、会社の営業損益管理上、有益です。なぜなら為替圧力で原価が上がっていることが分かれば、売値に転嫁するなり別にコスト削減努力をするなり、素早く改善策を打つことができるからです。
②仕入時点と支払時点のタイムラグを短くする
図表2では社内レートをその日の銀行レートに完全に一致させましたが、それでも為替差損が計上されてしまいます。これは仕入時点と支払時点が異なる限りやむを得ないのですが、このタイムラグをできるだけ短くすることで、為替差損を減らすことが可能です。時にはたった1週間で何%も変動することもあったり、長期的にはまた戻ったりしたりしますが、一般的にはこのタイムラグが短いほど仕入時点と支払時点の銀行レートの差は少なくなります。
(図表3)
| 仕入時点(3月) | 支払時点(4月) | |
| 仕入金額(円建て) | 1,200,000円 | 1,200,000円 |
| 社内レート(記帳レート) | 110円/US$ | 105円/US$ |
| 銀行レート(決済レート) | 110円/US$ | 105円/US$ |
| 仕入金額(US$建て) | 10,909US$ | |
| 支払金額(US$建て) | 11,429US$ | |
| 為替差損(US$建て) | 520US$ |
この場合には①の場合と異なり決済レート自体が変わることから、費用の総額が変わってきます。図表1の場合の費用総額は、仕入金額10,000US$+為替差損2,000US$=12,000US$ですが、図表3の場合の費用総額は仕入金額10,909US$+為替差損520US$=11,429US$となって費用総額が少なくなっています。
しかし、この例では円高局面ですので支払を早めることによって費用総額が減少しましたが、逆に円安局面では支払を早めると費用総額が増えてしまいます。現実にはどちらに動くか正確に予測はできませんので、結果的にどちらが得になるかは分かりませんが、少なくとも為替レートの変動の影響を排除したい場合には、このタイムラグを短くすることが有効な対策となります。
今回は(1)の内容を仕入の円高局面における為替差損を例にとって説明しました。円安局面だとどうなるのか?売上の場合はどうなるのか?など次回はさらにこの応用編をお話した後、(2)の為替差損益の計算方法とその対策についてお話しする予定です。
<まとめ>
・為替の変動も会社のお金を増やしたり減らしたりするので、管理が必要である。
・為替差損益の発生原因には、大きく分けて、
(1)外貨建取引を行った場合、取引時点の為替レートと決済時点の為替レートの差、
(2)期末時点の外貨建債権債務について、計上時点の為替レートと期末時点の為替レートの差、の二種類がある。
・(1)の為替差損益を小さくするためには、
①社内レートをその日の為替レートに近づける(=社内レートとして月末レート使用を推奨)
②取引時点と決済時点のタイムラグを短くする
ことが有効である。
[お金の管理] (1)現金管理
総経理って日本で言えば社長ですよね。会社の長だから、社長。ちなみに日本では会長というのもよく社長の上にいたりしますけど、これもやっぱり 会社の長だから会長なんでしょうか。しかも「会」の字が「社」より上にあるから会長の方が社長より上ということにしますか、なんて理由で決まってたりし て。さすがにここまでくるとこじつけの世界ですが。でも、会社の長だから社長、と呼ぶのはとっても自然な気がします。
中国や香港では会社のことは「公司」と呼びますが、日本で言う社長や会長のことを、公司長や公長、司長なんて呼ばないですよね。社長が総経理 で、会長が董事長、といったところでしょうか。中国の会社の最高機関は董事会ですので董事長と呼ぶのは自然ですが、なんで社長は総経理と呼ぶんでしょう か?
社長は実質的な権利を持っている人です。つまり、中国では実質的な権利の代名詞が「経理」だと考えられてきた、というのが自然な解釈かと思います。「経理」を総て取り仕切っている人が会社の実権を持つ者、総経理なのです!
そこで、総経理のみなさんに質問です。「経理」について総て取り仕切っていますか?「経理」については明るいですか?せめて経理担当者がどんな ことをしているか分かってますか?まさか経理担当者に丸投げで上がってきた資料を本社にそのまま提出して自分は営業に注力!なんてことはないですよね?
内心ドキッとされた方も多いんではないでしょうか。それも無理のない話でしょう。香港や中国に駐在して総経理となられる方は、営業や技術の腕を見込まれて赴任された方が多く、「経理」とは縁遠い経歴の方がほとんどだからです。
な~んだ安心!という方、気が早いですよ。考えてみてください、日本で社長やってる方はすべて経理畑出身ですか?違いますよね。それでも「経理」は分からん!なんて言ってたら日本の会社はみんな潰れてしまいます。社長たるもの、その職責を果たすためにちゃんと「経理」も勉強しているのです。
分かった、それじゃ「経理」って何なんだよ!って方、お待たせしました。これから5回の予定で「経理」のポイントについてお話します。といっても「経理」という言葉は漠然としているのでイメージが湧きにくいと思います。「経理」を「お金の管理」と言い換えたらどうでしょう?総経理が「お金の管理」の責任者だとしたら、会社の実権を持つ者というイメージにピッタリじゃないですか?
前置きがかなり長くなりましたが、今回は現金管理についてお話します。「お金の管理」といってまず思いつくのは現金や預金などの管理ですから、経理経験なんかなくたって簡単です。程度の差こそあれ、誰だって自分のお金の管理はしているのですから。だから今回は当たり前の話ばかりに思われるでしょう。ただ、今回挙げたポイントをご自分の会社に置き換えてチェックしてみて下さい。どのくらい管理できているでしょうか?
さて、まず一般的に思いつくお金としては、大きく分けて(1)ゲンナマの現金と(2)預金の2種類あります。当然ながらどちらも管理しなければなりませんが、それぞれの性質により管理方法にも若干差がでてきます。
(1)現金の管理
預金は目の前に実際のお金があるわけではありませんが、現金は目の前に実際のお金があります。これは同じお金でも大きな違いです。現金には色がついているわけではないので、誰でも使うことができます。これではまずいですよね。ちゃんと財布にしまっておかなければ、泥棒が入って使ってしまいますよ!
そのため、まず①金庫にしまっておかなければなりません。また、金庫の鍵が誰にでも使われるようでは簡単に開けられてしまうので、しまったことにはなりません。鍵も厳重に保管しないと心配です!それでは、鍵を別の金庫に入れて鍵をかける?これではどこまで金庫を増やしても安心できませんよね。そこで②金庫の鍵は暗証番号式にして、暗証番号は限られた者だけにしか教えないことにします。本当ならば総経理以外のものには教えたくないのですが、総経理は忙しい身ですから信頼できる人間にのみ教えるのはやむを得ません。ただし、③暗証番号を知っている人間が会社を辞めたら必ず暗証番号を変更してください。辞めた人間は既に総経理の信頼できる人間ではなくなるからです。とりあえずこれで泥棒の心配はなくなりました。
泥棒の心配はなくなりましたが、お金の出し入れをしただけでは、何に使ったか分からなくなります。こんなどんぶり勘定ではお金はどんどん無くなってしまいます。そこで④現金出納帳をつけて、お金の出入りの内容を記録することにします。また、内容を記録するだけでは間違って書いても後で確かめようがないので、⑤その記録の裏付け資料を保管しておく、ことにします。この裏付け資料は、支払先から発行されたものならばよく分からない場合でも後々支払先に問い合わせることもできるので、⑥支払先から発行されたものを裏付け資料とすることにします。
これで支払内容の記録も残ってるので、安心です。さあ、たまには支払いのチェックでもしてみますか。⑦現金出納帳と裏付け資料の束を見比べてみましょう。ここで裏付け資料がばらばらになってるとチェックに時間がかかりますよね。そのため、⑧裏付け資料は日付順にファイリングしておきましょう。現金出納帳も現金の出入りの順番で記録されているので、裏付け資料も同じように日付順にファイリングしておくと後々のチェックが便利です。また、現金出納帳の残高は必ず実際のお金と一致しているはずですよね。ところが、合ってると思っていてもたまに数えてみると一致してなかったりします。なんでずれているか原因を突き止めたくてもいつずれたのかが分からなければ原因究明は困難です。そのため、定期的に⑨現金を数えて現金出納帳の残高と合っているか確かめましょう。毎日数えてられないという場合でも、最低でも週に1回は数えることにすれば原因究明の手間はかなり減ります。また、今回は総経理が自らチェックしましたが、そんな時間がない場合には、⑩現金出納帳の担当者とは別の人間にチェックしてもらいましょう。担当者本人がチェックしてもなかなか間違いは見つけられないものです。
(2)預金の管理
これで現金の管理は手の内に入れました。これで預金の管理も手の内に入れれば、お金の管理をガッチリと総経理の手に取り戻したことになります。
基本は現金と同じですが、その性質の違いにより異なるところもありますので、それぞれ現金と対比させながらお話していきます。
まず①~③は現金の場合と全く同じです。小切手帳も預金通帳もATMカードも現金と同じですので、同じように大切にしまってください。ただ、ゲンナマ自体は銀行が保管してくれているので、銀行に行って手続きしなければ手に入りません。それだけでも現金よりも安全です。
また、⑤~⑧、⑩については、現金の場合と全く同じです。
つまり、④、⑨が違いがあるところです。現金出納帳をつけなければならなかった現金に対して、預金は銀行が入出金記録をつけてくれることが決定的な現金と預金との差だからです。銀行はバンクステイトメントを毎月送ってくれますので、会社としては、④バンクステイトメントを保管しておけば十分です。そのため、預金の場合には⑨は不要になります。
こうしてみると、現金と預金の管理はほとんど同じですが、よく比べてみると預金の管理の方がより簡単で、より安全です。つまり、どっちで管理してもいいお金は、現金よりも預金で管理した方が管理上は有利だということになります。そうと分かれば、できるだけ現金を手許に持たなくても済むように知恵を絞りますよね!
今回はイメージの浮かびやすい目に見えるお金の管理から説明しました。それぞれの手続きの意味について理解が深まれば、より効率的に管理することができるようになります。必要最低限の労力で、目に見えるお金はガッチリ握りましょう!
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