中国

中国・デジタル人民元の試行について

中国では旧暦新年(2021年は2月12日が元日)の「春節」休暇を終えて職場や学校が再開されています。春節では特に広東省等の地域では、「紅包(“ホンバオ”)と呼ばれるお年玉が上司から部下へ、顧客から店員へ、大人から子供や未婚の若者へ配られる姿が見られますが、中国の人民銀行よりデジタル人民元の複数の試行地でこの「紅包」がデジタル形式で配られました。深セン市は中国で最初に試行が開始され、すでに3回の配布試験が行われています。デジタル人民元の概要と特徴などについて以下簡単に紹介します。

概要

デジタル人民元は中国の中央銀行である人民銀行が発行するデジタル通貨(DC/EP, Digital Currency/ Electronic Payment )であり、発行主体が存在する点でビットコイン等の暗号資産とは異なり、また、中国で普及しているアリペイ(「支付宝」)やウィチャットペイ(「微信」)の機能は“お財布”である一方、デジタル人民元は“お財布の中身”であるという違いがある、と一般的に説明されています。

中国政府のデジタル人民元についてのこれまでの歩みは、2020年10月にオンライン開催されたユーロ・アジアフォーラムにて、前人民銀行行長 周小川氏より紹介されています。

2012年:人民銀行よりオンライン第三者支払い機構へのライセンス発給を開始。1社目はアリペイ。
2014年:人民銀行によるデジタル通貨プロジェクトグループが発足
2016年:人民銀行のデジタル通貨研究院設立の一方で、新札設計プロジェクト終了
2017年:DC/EP 研究開始、ICOとビットコインを禁止
2019年:試行開始を宣言
2020年:「4+1」試行(深セン、蘇州、雄安、成都の4都市と、北京冬季オリンピックを含む)を開始。
(出典:Eurasia Forum 周小川氏発表資料より)

直近では北京でのATM機にてデジタル人民元の現金引き出しの試行や、上海でのカード支払いの試行等も報道されています。

深セン市ではこれまで3回の配布が行われ、第一回:羅湖区にて1千万元(200元×5万人)、第二回:福田区にて2千万元(200元×10万人)、第三回:龍華区にて春節直前に2千万元(200元×10万人)と実施されると同時に、市内の多数の小売事業者を指定しデジタル人民元決済を実施させています。

(写真はデジタル人民元決済が可能とする表示。深セン市南山区の飲食店レジにて)

特徴

2020年試行期間において試験配布と同時に特徴や使い方が市民向けに以下のように紹介される動画等が報道されています。

  • デジタル人民元は新しい通貨ではなく、法定の人民元である。今後、人民元には実物通貨と、デジタル通貨が併存することになる。
  • デジタル人民元は、人民銀行―商業銀行 という2段階の運営を行う。
  • 自由に外貨と両替できることになる。
  • デジタル人民元APP内に保存され、利息は付かない。銀行口座が無くても、デジタル人民元は保有できる。
  • スマホでのオンライン支払のほか、スマホ同士のオフラインでも支払いできる。スマホが無い人はカード支払いでも可能とする。
  • 銀行振込や、第三者機構(アリペイ等)での支払い時には手数料が発生するが、デジタル人民元決済には手数料が発生しない。また、人民銀行から商業銀行、商業銀行間の現物輸送も不要でコストが発生しない。

今後の計画など

人民銀行前行長の周小川氏による2020年ユーロ・アジアフォーラム(ブダペスト)オンライン会議や、その内容を紹介した国内での発表内容や、清華大学国家金融研究員 朱民氏による2021年1月末開催の世界経済フォーラム ダボス会議(オンライン)のデジタル通貨に関するパネルディスカッションでの発表内容などによると、デジタル人民元は現状実物の人民元(=現金)としばらく併存し、すぐに実物に完全に代替するものではない、但し、併存により現金取引のコストの高さが認識されていくであろうとしています。また、正式発行の具体的なタイムスケジュールなどは発表されておらず、今後も当面小規模で各種多様な取引の実験を進めるとしています。

外貨との両替を自由に行うという計画については、企業間のクロスボーダー取引における機能も期待されます。外国人の中国入国時、銀行口座や現金がなくともデジタル人民元を自由に使うことができるようになるのか、北京冬季オリンピックがその試行機会となるかどうかが注目されます。