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移転価格文書化 – マスターファイル及びローカルファイル

目次

移転価格文書化の概要

移転価格規制監督制度は、香港事業体に移転価格文書、すなわちマスターファイル、ローカルファイル並びに国別報告書の作成を義務付けている。この三層の標準化されたアプローチは、首尾一貫した移転価格ポリシーを明確にし、かつ実行することを香港事業体に求めており、移転価格リスクを評価するための有益な情報を、税務局査定官に提供することを要求している。

本質的に、移転価格文書化には、グローバルなサプライチェーンの概要及びバリュードライバーの特定が必要である。グループ全体によって、価値がどのように創出されるか、関連企業及び他のグループ内企業によって果たされる各機能の相互依存性、並びに関連企業がその価値創造に貢献することを文書化することが重要である。関連当事者が各々の機能を実行する際の法的権利及び義務を文書化することもまた、重要となるだろう。従い、企業は、バリュードライバーや関連するリスク及び機能を含む、自社のバリューチェーンを説明する必要がある。バリュードライバーの枠組は、移転価格文書化の機能分析の基礎となる。バリューチェーン分析によって、事業活動における次の側面に関する情報が提供されることとなる:

移転価格文書化は、対象となるグループの移転価格ポリシーをサポートするために作成される。それによって、関連企業間の取引価格及びその他条件を確定し、法人利得税申告時にそのような取引から発生する利益もしくは所得を報告する際に、移転価格要件が適切に検討されることが保証される。適切な移転価格の文書化は、企業が採用する移転価格の取扱いに関する防御策として役立つ可能性がある。これによって、対象となる企業が税務条例(第112章)(Inland Revenue Ordinances、以下「IRO」)の第50AAF条(1)項もしくは第50AAK条(2)項に基づき、独立企業間価格を決定するために合理的な努力をしたことを実証しやすくなる。対象となる企業が独立企業間価格を決定するために費やした合理的な努力にもかかわらず、税務局査定官によって移転価格の調整が実施される必要がある場合、その企業は第82A条に基づく追徴課税に対する責任を負わない。

国別報告書の詳細については、ここ [16]をクリックして頂きたい。

マスターファイル及びローカルファイル

マスターファイルは、グローバルな事業運営及び移転価格ポリシーを含む、多国籍企業グループの概要を提供するものである。これにより、重要な移転価格リスクの存在の評価を支援することが期待されている。マスターファイルのおける情報は、5つのカテゴリーに分類されている:

1. 多国籍企業グループの組織構造;
2. 多国籍企業グループの事業内容;
3. 多国籍企業グループが保有する無形資産;
4. 多国籍企業グループ間の金融活動;並びに
5. 多国籍企業グループの財政状態及び納税状況。

ローカルファイルは、各管轄区域において、対象となる企業にとって特有の詳細な取引上の移転価格情報を提供する必要があり、これには、当該企業及び関連企業間による重要な関連者間取引の詳細、それらの取引に関する金額、並びにそれらの取引に係る移転価格分析が含まれる。これは、マスターファイルを補足し、重要性の高い移転価格の考え方において、当該企業が独立企業原則を遵守していることを保証する目的で役立つものとなる。

マスターファイル及びローカルファイルの作成が要求される事業体

関連事業体との取引に従事する広義の意味でのグループ内香港事業体は、いくつかの免除条件がある中で、マスターファイル及びローカルファイルを準備する必要がある。

通常の意味でのグループとは、次のような所有権または支配を通じて関連する企業の集合体を意味する:

香港事業体とは、香港における税務上の居住者、または香港内の恒久的施設であるグループの個別の事業単位を意味する。

免除規定等

マスターファイル及びローカルファイルの作成要件は、次の免除項目の対象となる:

1. 事業規模に基づく免除

以下の条件のいずれか2つを満たす香港事業体は、その会計期間のマスターファイル及びローカルファイルを準備する必要ない。

2. 関連者間取引の金額に基づく免除

ある会計期間中に、香港事業体によって行われたある種類の関連者間取引の合計額が、以下に規定されるしきい値を超えない場合、当該会計期間に関する当該事業体のローカルファイルは、その特定の種類の取引を網羅する必要はない:

取引内容 金額
資産取引(動産及び不動産は問わないが金融資産及び無形資産除く) 2億2千万香港ドル
金融資産取引 1億1千万香港ドル
無形資産取引 1億1千万香港ドル
その他の取引 4千4百万香港ドル

関連者間取引の各種のしきい値は、同じ種類の取引の総額に対して適用される。関連者間取引は、収益項目もしくは費用項目になり得る。各取引は、互いに相殺されることなく個別に考慮する必要がある。その上、その取引の独立企業間価格は、しきい値を超えているかどうかを判断するために集計されなければならない。

香港事業体が実施する各種の関連者間取引の合計額が、上記のしきい値を超えない場合、マスターファイル及びローカルファイルを準備する必要はない。

3. 特定国内取引の免除

ある会計期間に関連する香港事業体のローカルファイルは、特定国内取引を網羅する必要はない。このような取引は、上述2段落目のしきい値を超えているかどうかを判断する際に考慮されない。

特定国内取引の意味については、税務局解釈実務指針第58号 [17]の47段落目を参照して頂きたい。

マスターファイル及びローカルファイルの要記載事項

マスターファイル及びローカルファイルに含まれるべき情報は、IRO附表第17Iの第3部に記載されている。詳細については、ここ [18]をクリックして頂きたい。

適用開始年度

マスターファイル及びローカルファイルに関する諸要件は、2018年4月1日以降に開始する会計期間に関連して適用される。

年次決算の終了日 マスターファイル及びローカルファイルの最初の会計期間の終了日
1月1日から3月30日までの間 (つまりMコード) 2020年1月1日から2020年3月30日までの間 (すなわち2019/20年度の査定年度)
3月31日 (つまりMコード) 2019年3月31日 (すなわち2018/19年度の査定年度)
4月1日から11月30日までの間 (つまりNコード) 2019年4月1日から2019年11月30日まで (すなわち2019/20年度の査定年度)
12月1日から12月31日までの間 (つまりDコード) 2019年12月1日から2019年12月31日まで (すなわち2019/20年度の査定年度)

マスターファイル及びローカルファイルの要作成提出時期

IRO第58C条(2)(a)項に基づき、香港事業体は、その会計期間の終了日から9ヶ月以内に、マスターファイル及びローカルファイルを準備しなければならない。当該香港事業体は、マスターファイル及びローカルファイルを準備する必要があるかどうかを、法人利得税申告書及び補足様式(別表)S2で申告しなければならない。マスターファイル及びローカルファイルは、税務局査定官の要求に応じて、提出できる状態としておかなければならない。

作成及び保管

マスターファイル及びローカルファイルは、英語もしくは中国語で作成準備される必要がある。各々のファイル内の用語、表示の順序並びにその形式は、附表第17Iに規定されているものと全く同じである必要はない。しかしながら、関連事業体との取引の価格設定において、対象となる香港事業体が第50AAF条(1)項及び第50AAK条(2)項に基づき、遵守しているかどうかを税務局査定官が確証できるよう、附表第17Iで規定されている必要な情報を、それらのファイル内に含めなければならない。要求される詳細性及び包括性の程度は、関連する移転価格の複雑性、並びに対象となる事業体の全体的な税務上の見解に対して、測定されるリスクの重要性の相互関係である。これらのファイルはハードコピーもしくは電子形式で保存可能である。

香港事業体は、毎年そのマスターファイル及びローカルファイルをレビューし、更新しなければならない。ただし、関連者間取引に関係する状況が、年間を通じて一貫している場合、ローカルファイル内の特定の情報(ベンチマーク調査や関連取引の比較対象の説明等)を最大で3年間ロールフォワードすることができる。

香港事業体は、関係する会計期間の終了日から、7年間以上これらのファイルを保管する必要がある。

法令遵守等

税務局査定官は、香港事業体に対し、法人利得税申告書を申告する際にマスターファイル及びローカルファイルを合わせて提出することを要求しないが、それら事業体は、関連事業体と関連者間取引を行っているかどうか、並びに第58C条に基づくマスターファイル及びローカルファイルを準備することを要求されているか、法人利得税申告書及び補足様式(別表)S2において、申告しなければならない。税務査定官は、コンプライアンス遵守を確保するため、定期的な机上レビューを実施する。これらレビューの主要な目的は、香港事業体が関連事業体との関連者間取引のために、適切なマスターファイル及びローカルファイルを保持していることを確認することである。特に、当該レビューにおいては次の分野に焦点を当てる:

机上レビューは通常、法人利得税申告書の提出後6ヶ月以内に実施される。マスターファイル及びローカルファイルを準備する必要があることを、法人利得税申告書に対する補足様式(別表)S2において申告している、または、事業規模が免除基準を超えている香港事業体は、机上レビューの対象として選択される可能性がある。

選択された事業体が、マスターファイル及びローカルファイルを準備する必要があるという申告を行った場合、その選択された事業体は、机上レビューの目的で、次に記載する情報並びに書類を提供するように要求される:

さらに、その状況に応じて、机上レビューのために選択された事業体は、次の詳細情報及び書類を提供することを求められる可能性がある:

上記のリストは、全てを網羅したものではない。税務局査定官は、机上レビューの過程で追加情報を要求する可能性がある。マスターファイル及びローカルファイルを含め、要求される書類の一部が膨大となる場合があるため、それら書類を電子形式で提供することも許容される(CD-ROMなど)。

選択された事業体が、マスターファイル及びローカルファイルを準備する必要があることを、法人利得税申告書への補足様式(別表)S2において申告していない場合、当該事業体は、事業規模ベースの免除もしくは取引額ベースの免除要件がどのように満たされているかに関する詳細説明の提供を求められることとなる。

香港事業体が、第58C条で規定されている要件に従って、マスターファイル及びローカルファイルを備えていないことが、机上レビューの結果によって判明した場合、税務局査定官は、IROの第80条(2Q)項に基づき、当該事業体に対して起訴を提起することができる。有罪判決となる場合、当該香港事業体は、レベル5の罰金刑(すなわち50,000香港ドル)に服する責任を負い、裁判所は、IROの第80条(2R)項に従い、当該事業体に対し、対応を怠った対応すべき行為を指定された時間内に行うよう命じることができる。当該香港事業体が、上述の裁判所の命令に従わない場合、IROの第80条(2S)項に基づく有罪判決となり、レベル6(つまり100,000香港ドル)の罰金刑が、さらに科せられることとなる。

法人利得税申告書を審査する際、税務局査定官は、移転価格処理を正当化するための証拠書類の提出を、香港事業体に対し要求するケースがある。そのように要求された香港事業体が、第58C条における要求事項を順守しなかったことが明らかになった場合、当該事業体に対し刑事訴訟もまた提起されることとなる。

参考資料及びよくある質問

問い合わせ等

マスターファイル及びローカルファイルについての質問があれば、次のEメールへの問い合わせが可能である: taxpf@ird.gov.hk

原文 [20]、2019年8月27日更新)