ベトナム ベトナムビジネス・会計税務入門

ベトナム会計・税務入門(5)-ベトナムの移転価格税制について

はじめに

ベトナムでは外国投資法が1988年から施行されてから今年で30周年を迎えます。このような状況の中で、海外からの直接投資に関するさまざまな制度の見直しが注目されています。今ベトナムの税制を取り巻く環境は、重要な転機を迎えていると言えます。
移転価格税制では、2006年に移転価格税制の基本法令が施行されてから10年以上が経過し、2017年2月にはDecree No. 20/2017/ND-CPが発表されました。このDecreeは、2017年5月1日から有効で、2017年度の法人税申告から適用されています。
現在では、ベトナムは近隣の諸外国と比較して法人税率の低い国になったわけですが、海外にある親会社や関連会社との取引の税務上の規制を強化する姿勢が見えます。このようなことから移転価格税制がベトナム政府の重要課題になってきました。

Decree No. 20における移転価格税制の概要

Decree 20には、OECDのBEPS行動13の文書化要求事項の適用及び実施が含まれています。よって以前の規定よりも厳しいものとなっています。概要を説明します。

移転価格文書の準備

用意しなければならない移転価格文書には、次の3つになります。

  • グローバルマスターファイル グループの全体像に関する資料
  • ローカルファイル ベトナム現地法人と海外にある関連者間の取引に関する資料
  • 国別報告書 各国でのグループ企業の活動状況、所在地、所得や納税に関する資料

規定では、法人税申告書を提出する前までに移転価格文書のベトナム語での作成及び保管が義務付けられています。税務調査中に提出を要求された場合は、15営業日以内に、税務調査以外で移転価格文書を要求された場合は、30営業日以内に提出する必要があります。
国別報告書は、諸外国では、グループ企業の最終親会社所在地国で提出され、各国の税務当局は、情報交換条約を利用して、情報を交換しているのが通常です。最終親会社の所在国がベトナムでない場合でもベトナムで提出が必要かどうかはまだ明確にはされていません。

法人税申告書での開示 フォーム1

2018年3月末に提出する法人税申告書には、移転価格情報の開示のために新しいフォーム1の提出が必要になりました。このフォーム1では、取引の建値分析方法、取引金額、関連者取引の種類、所在国などを開示することになっています。
ベトナム国内の関連者取引だけを行っている場合でも、優遇税制の適用を受けている関連者(法人税税率が違う場合)取引は、記入する必要があります。

借入利息の損金算入の制限

移転価格文書の作成基準以外で借入の利息に関しての損金算入制限が新たに規定されました。課税年度に発生した借入利息は、税引き前利益(規定では、利息前、償却前、税引き前)の20%まで税務上の費用として認められます。20%を超える部分、または税引き前利益ではなくて損失の場合、利息は税務上の費用として認められません。制限される利息が、関係者からの借入から発生した利息だけなのか、それともすべての利息が制限の対象になるのか明確にはされていません。

事前確認制度(APA)

ベトナムでも、自国、2カ国間、多国間でのAPAが可能とされています。

最後に

ベトナム財務省によると2016年度、移転価格税務調査は329社を対象に実施され、追徴課税やペナルティーは約6千億ドン、欠損金の減額は約5兆ドンでした。また2017年度、734社を対象に実施され、追徴課税やペナルティーは約2兆ドン、欠損金の減額は約7兆ドンとなりました。
ペナルティーは税務行政法に従い算定されます。具体的には、追徴課税(10%または20%)と遅延利息(1日当たり0.03%、0.05%、0.07%)になります。
現在の税務管理法において、税務調査の日数は45営業日(複雑なケースは70営業日)とされています。この上限が360日程度まで引き上げられることが予想されています。
移転価格で税務当局の目を引くのは、海外直接投資企業でかつ長期にわたる赤字企業、赤字またはそれほど利益も生んでいないのに投資の拡大を行っている企業です。
移転価格で税務調査が入った場合、通常の税務調査と違った資料の提出を要求されることが予想されます。そのため、予想外のコストが発生することもあります。移転価格で懸念のある企業は税務調査が入る前から、移転価格の専門家・会計事務所に相談し、ベトナムの法令・規定に準じた移転価格の文書化に慎重に対応する必要があります。