中国 中国会計税務レポ

[中国会計税務レポ] 企業関連者間取引の特別調整 – 事前確認制度(6)

OECD(経済協力開発機構)による多国籍企業の国境を越えた租税回避行為の問題を解決するための「BEPS(税源浸食と利益移転)」行動計画への対応強化として、中国の国家税務総局は、移転価格の事務処理ガイドラインとして制定された『特別納税調整実施弁法(試行)』(国税発[2009]2号。以下「2号弁法」)のうち、関連者間取引に関する開示資料(第二章、第三章)と事前確認制度(第六章)の規定を2016年に全面的に改訂しました。
今回は『事前確認制度の改善事項に関する公告』(国家税務総局公告2016年64号。以下「64号公告」)について紹介します。

1. 事前確認制度(中国語表記は「預約定価安排」)

事前確認制度(Advance Pricing Arrangement。以下「APA」)とは、移転価格課税リスクをあらかじめ回避するために、将来の年度における国外関連者との取引価格設定方針およびその算定方法について事前に税務機関に申請を行い、独立企業間原則に従っているとの合意を得る制度です。
国際取引で生じる二重課税については、租税条約などに基づく二国間の租税協議(注1)により排除されるべきであるものの、実質的には国内法上の訴訟による解決に至るなど、納税者である企業にとっては、対応が長期にわたり、かつ経済的な負担も大きくなっています。一方、徴税側である課税当局としても、税の徴収は各国家それぞれの主権であり、多国間での課税権、課税管轄権を調整するAPAは、確実な税収につながる有効な手段となります。すなわち、APAは、納税者のみならず課税当局にとっても国際取引における税務紛争を事前に回避するための制度です。「BEPS行動計画14」(注2)においても、国際税務の紛争をより効果的に解決する方法として、二国間のAPAの実施を奨励しています。

(注1) 日本と中国の間の『所得に関する二重課税の回避及び租税の防止のための日本国政府と中華人民共和国政府との間の協定』第25条においても協定の規定に適合しない課税が発生した場合、双方の課税当局の相互協議による解決が求められている。
(注2) BEPSに対処すべき重点分野15の行動計画のうち、第14では『紛争解決メカニズムの効率化』として、租税条約に関連する紛争解決のために相互協議をより実効的にすることが図られた。

2. 中国の事前確認制度

64号公告によると、中国のAPAには、国内、二国間、多国間の3種類があり、税務機関から企業にその締結意向書受理の税務事項通知書を送達した日(以下、「締結意向書受理通知送達日」という。)の属する年度から3~5年度の取引に適用され、過年度の関連者間取引が適用年度と同様である場合には最長10年間の遡及適用が可能とされています。

  1. 適用要件
    APAの適用にあたっては、企業の関連者取引の金額が締結意向書受理通知送達日の属する年度の前3年間連続して4000万元以上であることが求められています。また、優先受理要件として、納税信用ランクがA級であること、企業の関連申告および同時文書が完備され、合理的でかつ十分な開示がなされていることなどが示されています。
  2. 手続き
    APAは

    • 予備会談
    • 締結意向書の提出
    • 分析と評価
    • 正式申請
    • 協議・締結
    • 実施状況の監督

    の6段階で行われるものとされています。

企業はまず予備会談申請書を提出し、予備会談で税務機関との見解が一致した場合に締結意向書を提出することができます。税務機関は締結意向書と共に提出された申請ドラフトを分析・評価し、正式なAPA申請への同意を企業に通知します。2号弁法では匿名による準備会談が設けられていましたが、64号公告では設けられておらず、かつ、正式に申請の前に広範囲な事項に関しての説明が求められるなど、より厳しくなっています。同意書を受け取った後、企業は正式申請を行い、税務機関は申請を受理した後、改めて企業と協議するか否かを検討して企業との協議を実施し、事前確認協議を締結します。APA適用期間中、税務機関はその実施状況をモニタリングし、企業の業務運営に重大な変化があった場合には、当該APAを改定または中止することができるとされています。