中国 中国会計税務レポ

[中国会計税務レポ] 企業関連者間取引の特別調整 – 同時文書(4)

「BEPS(税源浸食と利益移転)」対応強化の一環として昨年6月に国家税務総局から公布された『関連者間取引申告と同時文書の管理に関する公告』(国家税務総局公告2016年42号。以下「42号公告」といいます。)について紹介しています。今回はローカルファイルの開示内容について紹介します。

1. ローカルファイル

ローカルファイルとは、企業所得税法およびその関連規定に基づいて、年度関連者間取引金額が所定の条件に合致する場合に提供が求められる同時文書のうちの1つで、中国で行われた重要な関連取引、移転価格決定に関する分析の情報を開示するものです。42号公告では従前(注1)と比較してより多くの情報開示が求められ、地域特性についても分析し、中国企業が多国籍企業グループから合理的な利益分配を受けているか否かの検証が強く求められていることが覗えます。

(注1) 『特別納税調整弁法(試行)』(国税発[2009]2号。以下「2号弁法」)

2. ローカルファイルの開示要求

ローカルファイルにおける開示項目は以下の通りです。

  1. 企業の概要
    • 組織構成
    • 管理構造
    • 業務説明(業種の発展状況やその産業政策、業種制限、主要な競合相手など)
    • 経営戦略(各部門や各段階のフローチャート、運営モデル、価値貢献要素など)
    • 企業の各類型別の財務データ
    • 企業の再編・無形資産の譲渡、およびその影響分析。

  2. 関連関係
    • 企業の持分を直接または間接的に有する関連者及び企業と取引のある関連者の情報②関連者に適用される所得税の税目・税率および享受する租税優遇処置
    • 年度における関連関係の変動状況。
  3. 関連者間取引
    関連者との取引に関する

    • 取引概況
    • バリューチェーン分析(注2)
    • 対外投資④関連持分譲渡⑤関連者役務
    • 中国以外の国家で行った租税の裁定―といった、関連者間取引の機能とリスクについて

    最も詳細な開示が求められている項目です。
    42号で新たに追加された記載事項も多く、

    • 取引概況では、労働力原価、環境原価、市場規模、市場競争の程度、消費者購買力、商品或いは役務の代替可能性、政府規制などの地域特殊要因が価格設定に与える影響の分析、
    • バリューチェーン分析では、事業活動の各段階における参与者の財務諸表および企業価値創造に対する貢献やグループ利益の配賦の概要
    • 対外投資のプロジェクトの基本情報、概況および運営データ
    • 関連者間の持分譲渡の背景、参加者、価格、収益およびデューデリジェンス報告書などの情報
    • 関連者役務では、提供する役務の具体的内容、および価格決定のプロセスにおける費用の集計、配賦基準、計算過程などの詳細な資料
    • 企業の関連取引に直接関わる場合、他の国家の税務主管が締結した事前確認制度等―など

    2号弁法では求められていなかった内容の開示が求められています。

  4. 比較可能性分析
    従前と大きな変化はなく、

    • 比較分析で考慮すべき要素
    • 比較する企業の果たす機能(負担するリスクおよび使用する資産の関連情報)
    • 比較対象の選定方法
    • 独立企業間価格情報および比較する企業の財務情報
    • 比較データの再調整および理由の開示

    が求められています。

  5. 移転価格算定方法および使用
    検証対象企業の選定と理由

    • 移転価格算定方法の選択および理由(いかなる方法を選択したとしても、企業のグループ全体利益に対する貢献度の説明を要する)
    • 比較可能な非関連取引価格または利益を確定する過程において行った仮定と判断
    • 合理的な移転価格算定方法および比較分析結果に基づく比較可能な非関連取引価格または利益を確定する
    • その他移転価格方法選定にあたり参考とした資料
    • 関連取引の価格設定が独立企業取引原則に合致しているか否かの分析と結論。

(注2) Value Chain(中国語表記は価値レン:レンはカネヘンに連)とは、企業の原材料の調達から商品やサービスとして顧客に届けられて利益が生じるまでに付加される価値の連鎖をいい、企業の競争優位性を明らかにするために企業の内部環境を分析するモデルを指します。企業の事業活動を機能ごとに分類し、付加価値を生み出している機能を分析して、構成要素の効率を上げる、競合他社との差別化を図るなど企業戦略を立てるために行います。