香港 香港会計税務

[香港会計税務] 香港における税制適格航空機リース事業優遇制度

国際金融センターや国際物流拠点に象徴され、その役割を担えるインフラが整備されているここ香港において、航空金融事業は高付加価値の航空サービスに不可欠であることが2015/2016年度、2016/2017年度政府施政報告・財政予算案の中でも言及され、航空機リース事業に対する税務上の優遇措置は長らく渇望されていましたが、2017年3月10日に当該税務条例改正案が官報に掲載されて以来、立法会での審議が継続されました。当該審議中、航空機リース事業者へのさらなる優遇措置の選択肢拡大案が盛込まれ、2017年5月19日に当該条例改正案への修正案が提案、2017年6月28日に承認されています。これにより、2017年4月1日以降開始する決算期から、税制適格航空機リース事業に対する優遇制度(Aircraft Leasing Tax Concessions、以下「ALTC」)が適用されることとなりました。その内容について背景も交えながら、下記の通り解説します。

1. ALTCの概要

以前大きな議論となった、来料加工の独資化後に税務条例第39E条(1)(b)(i)の下、中国本土側に貸与する機械設備の減価償却費が税務上否認されることがボトルネックとなっており、これによると、香港内の航空機リース事業者の航空機のリース料が原則全額課税となる一方で、海外の航空会社にリースしている場合は、税務上その航空機の減価償却費を損金として処理することが出来ないこととなります。これを理由として、香港及び多国籍で香港に拠点を置く企業グループが、アイルランドもしくはシンガポールに子会社や関連会社を設立し、それらが航空機を購入し当該リース事業に従事しているケースが多く見受けられました。当該状況に呼応した形で提案された税務条例改正案における優遇措置の内容は、次の通りです。

a. 税制適格航空機リース事業者(Qualifying Aircraft Lessors、以下「QALs」)が、香港外(オフショア)の航空会社に航空機をリースして稼得する所得については、当該航空機に係る減価償却費は税務上認められないものの、その他関連経費を差し引いた課税標準額の20%をみなし課税所得とする;並びに、
b. 特定の税制適格要件が満たされていることを条件として、QALs及び税制適格航空機リース管理事業者(Qualifying Aircraft Leasing Managers、以下「QALMs」)が稼得する課税所得に対し、利得税(法人所得税)率が半分に軽減(16.5%×50%=8.25%)される。

上述により、税制適格航空機香港外(オフショア)リース事業から稼得される、減価償却費を除くその他関連経費を差し引いた課税標準額に対し、利得税(法人所得税)率が実質10分の1に軽減(8.25%×20%=1.65%)されることとなります。税務条例第39E条(1)(b)(i)については固持するスタンスは変更しない一方で、実質的にはみなし経費((リース収入-関連経費全額+関連減価償却費)×80%)の追加での損金算入を許容するものとなっています(※)。

2. QALs及びQALMsの対象企業と見なされるための諸要件

QALs及びQALMsの対象企業は、実際に旅客運輸や貨物運輸事業に従事する航空会社を除く、①各税年度ベースで、香港において一定の共通要件を満たし、税制適格航空機リース事業関連活動もしくは税制適格航空機リース管理事業関連活動のみに従事する企業、②セーフ・ハーバー・ルール(後述の表1参照)を満たす企業、または③香港税務局局長の裁量による承認を得た企業、の3区分となっています。

ここで、QALs及びQALMsの対象企業と見なされるための共通要件は、次の通りとなっています。

◇ QALs及びQALMsの対象企業と見なされるための共通要件:
a. 対象企業の中核となる経営管理及び統制が香港内で実体を伴って行使されており;
b. 関連する課税所得の稼得活動が香港内ですべて実施されており;かつ、
c. 当該稼得活動が対象企業の香港外の恒久的施設によって実施されていないこと。

次に、QALs及びQALMsの対象企業と見なされるための基礎要件、並びに税制適格航空機リース事業及び航空機リース管理事業関連活動の具体的な内容は、下記の通りです。

◇ QALs及びQALMsの対象企業と見なされるための基礎要件:
a. 対象企業が航空機オペレーター(航空会社)ではなく;
b. 提供する(もしくは別法人より提供されている)リースは、ドライリース(1年以上の航空機リースであり、航空機リース以外の従業員の派遣やメンテナンス業務などのサービスは一切しない形態)、またはドライリースの下での管理業務であり;かつ、
c. 提供する(もしくは別法人より提供されている)リースは、所有権が貸手から借手に移転する可能性があるファイナンスリースではないこと。

◇ QALsの対象企業と見なされるための税制適格航空機リース事業関連活動要件:
a. 当該業務は、対象企業が従事する通常の香港内での営業活動において実施されていること;
b. リースされる航空機は対象企業が所有し、香港外(オフショア)の航空会社にリースされていること(※);及び、
c. 香港内で税制適格航空機リース事業関連活動以外の業務に従事していないこと。

◇ QALMsの対象企業と見なされるための税制適格航空機リース管理事業関連活動要件:
d. 前述のa.に加え、リースされる航空機は別法人(QALsを含む)が所有し、香港外(オフショア)の航空会社にリースされていること(※);並びに、
e. 原則として、香港内で1つ以上の税制適格航空機リース管理事業関連活動にのみ従事していること(※後述の3.及び表2参照)。

 税制適格航空機リース管理事業関連活動の内容は以下の通り:
– QALsである別法人の管理業務;
– 航空機の保有を目的とする特定目的会社(Special Purpose Company、以下「SPC」)の設立もしくは管理業務;
– 対象企業またはその関連会社が、100%出資もしくは一部出資しているSPCに対し、航空機の所有権を取得するための資金提供業務;
– 対象企業またはその関連会社が、100%出資もしくは一部出資しているSPCの航空機リース事業に対し、財務上もしくは業務上の義務履行に係る保証提供業務;
– リース取引の管理;
– 航空機の調達もしくはリース取引の手配;
– 航空機の運用、メンテナンス、修繕、保険、保管、廃棄もしくは改良の手配;
– 航空機、航空会社施設、航空機メンテナンス設備の評価、査定、提供もしくは検査の手配;
– 航空業界及び航空機市場の動向に係る査定の手配;
– オペレーティングリース取引のマーケティング活動;
– 別の航空会社が、QALsである別法人より航空機の所有権を獲得するために必要な資金提供業務;
– 残価保証業務もしくは買戻条件付き販売契約の提供;並びに、
– QALsである別法人への航空機リース活動に関連するサービス業務の提供。

ここで、上記項目に該当する活動に100%専門的に従事している企業は、QALMsとして容認される可能性が高い一方で、100%専門的ではなく、多角的な業務に従事しているものの、その業務の大半が上記項目に該当する活動に従事している場合の譲歩規定として、セーフ・ハーバー・ルールが存在します。

<表1> セーフ・ハーバー・ルールの要件内容

基準内容 単年度要件 複数年度要件
所得要件 対象企業の税制適格航空機リース管理事業関連活動に係る利益の割合が総利益の75%以上であること 対象企業の直近3年間連続で見たときの税制適格航空機リース管理事業関連活動に係る利益の割合が総利益に対し各年度平均で75%以上であること(個々の状況に応じ2年間でも許容される可能性有)
資産要件 対象企業の税制適格航空機リース管理事業関連活動に係る資産の割合が総資産の75%以上であること 対象企業の直近3年間連続で見たときの税制適格航空機リース管理事業関連活動に係る資産の割合が総資産に対し各年度平均で75%以上であること(個々の状況に応じ2年間でも許容される可能性有)

☆関連規定 – 税務改正条例第14G~14N条、附表17F、他

さらに、セーフ・ハーバー・ルールすらも満たすことが困難である企業であっても、香港税務局へ正式にQALMs申請することが可能であり、当局長の裁量による承認を得られた場合には、QALMsとして当該企業を運営することも可能とされています。

3. ALTCの選択肢拡大案

2017年3月10日に官報に掲載済みの元々のQALs及びQALMsの対象企業とみなされるための税制適格航空機リース事業関連活動要件の中で規定されていた、上記※「香港外(オフショア)の航空会社にリースされていること」の要件が、2017年5月19日に当該条例案審議段階の修正案で撤廃され、「香港内(オンショア)の航空会社にリース」される場合であっても、当該優遇制度を享受可とする選択肢が与えられることとなっています。原則としては、航空機オンショアリース事業に従事する場合、通常通り減価償却費や関連費用は税務上損金算入を認められ、通常の税率16.5%が適用されますが、当該選択肢拡大により、QALsとして認識されることも可能と考えられます。

<表2> QALsの優遇税率選択肢拡大

スキーム内容 香港外の航空会社にリース 香港内の航空会社にリース
スキームA
– 減価償却費の損金算入可;
– 課税標準額の100%を通常の課税所得;及び
– 利得税(法人所得税)率は通常税率16.5%
選択不可 選択可(ただし、1度選択するとスキームBへの変更原則不可)
スキームB
– 減価償却費の損金算入不可;
– 課税標準額の20%をみなし課税所得;及び
– 利得税(法人所得税)率が半減8.25%
選択可 選択可(ただし、1度選択するとスキームAへの変更原則不可)

☆関連規定 – 税務改正条例第37~39D条、他

当該選択肢拡大実施の背景としては、経済協力開発機構(Organization for Economic Co-operation and Development、OECD)が提唱する、企業の税源浸食と利益移転(Base Erosion and Profit Shifting、以下「BEPS」)の活動計画の中で、国内市場の分離要因により、有害な租税慣行に該当すると考えられる旨の指摘を受けたため、と考えられ、結果として香港政府や職能団体からは歓迎される内容となっています。

4. ALTCに関連するその他の適用要件

QALs及びQALMsの対象企業と見なされるための共有要件より推測すると、「業務を供与した場所(Operation Test)」に基づき、課税の要否が判定されると考えられますが、税務改正条例第15条(1)(n)の下では、「実際に活動している場所(Deeming Provisions)」のみなし規定に基づき、香港における航空機リース事業もしくは航空機リース管理事業から得られる利益(資本的資産の売却から生じるものを除く)は、当該航空機が香港外で使用されている場合であっても、香港に所得の源泉地があると判断されることが明確化されています。他方、QALsとしてのステータスを否認し得る租税回避防止規定として、次の項目が挙げられています。

a. 対象となる航空機リース事業者が、そのリース事業に用いる航空機に係る資本的支出を行なっていない場合;
b. 対象となる航空機リース事業者の関連会社が、そのリース事業の対象となる航空機に係る減価償却費を香港で税務上損金算入処理している場合;または、
c. 対象年度において、航空機リース事業者の関連会社が、対象となる航空機に係る資本的支出を香港内もしくは香港外での課税所得計算において控除している場合。

さらに、1つの取引が継続中にも関わらず他の取引として、香港外の航空会社にリースされた航空機(サブリースなど)である場合は、税務局局長が当該手配の状況及び目的すべてを勘案(恣意的な租税回避の有無を含め)し、かつ当該リース契約下での航空機を使用する権利を考慮しつつ、当該リース取引から発生する収入全額を個々の取引に厳密に割当てなければならない、とされています。

また、航空機を売却し売却益が発生する場合、一定の要件(3~5年間の長期保有や元々売却目的ではないなど)を満たせば、キャピタルゲイン非課税を享受することが可能ですが、当該優遇制度の中では、①対象となる航空機を売却する直前に、当該航空機を使用した税制適格航空機リース事業を3年以上継続しており、かつ②当該リース事業に従事していた期間中、当該リース事業から稼得された課税所得に対し8.25%の軽減税率が適用されていた場合、当該航空機売却時の売却益は、キャピタルゲイン非課税として取扱われることが明確に規定されています。

5. ALTCに関連するその他の検討事項

現在世界的に注目されている航空機リース事業ですが、アイルランドはその発祥の地と言われており、その税制や要件は非常にシンプルで、一方で既にアジアの航空機リース事業会社の設置先として名高く、先に多国籍企業へのインセンティブとして、航空機リーシングスキーム(Aircraft Leasing Scheme、以下「ALS」)優遇制度を制定したシンガポールの2カ国の驥尾に付し、今回の香港におけるALTCによって、多国籍企業のアジアの地域統括事業拠点として、香港の地位強化に貢献するもの(後述の表2参照)と考えられます。

<表2> 香港のALTC、シンガポールのALS及びアイルランドでの航空機リース事業に対する税制上の優遇措置の概要簡易比較

国別内容 香港 シンガポール アイルランド
適用要件 – 香港において一定の共通要件を満たし、税制適格航空機リース事業もしくは航空機リース管理事業関連活動に従事する企業;
– セーフ・ハーバー・ルールを満たす企業;または、
– 香港税務局局長の裁量による承認を得た企業
– 目安として経費支出1,500万星ドル程度の事業を行うこと;
– 目安として10人程度の専門スタッフを雇用すること;並びに、
– 中核となる経営管理や統制、及び交渉や契約を含む営業活動がシンガポール内で行使されていること
– 航空機リース事業関連活動を主たる事業とし、当該航空機はアイルランド外で使用されていること;並びに、
– アイルランド居住者として認識される(中核となる経営管理や統制、及び交渉や契約を含む営業活動がアイルランド内で行使されている)こと
優遇内容 – QALsが、香港内外の航空会社に航空機をリースして稼得する所得については、当該航空機に係る減価償却費は税務上認められないものの、その他の関連経費を差し引いた課税標準額の20%をみなし課税所得とする;並びに、
– 特定の税制適格要件が満たされていることを条件として、QALs及び QALMsが稼得する課税所得に対し、利得税(法人所得税)率が半分に軽減(16.5%×50%=8.25%)される。
– 航空機もしくは航空機エンジンリース事業及び適格付随活動(航空会社が航空機を調達する際の貸付など)から生じる所得に対する優遇税率が、5%もしくは10%;並びに、
– 航空会社が航空機を調達する際のシンガポール国外からの借入金に係る支払利息に対する源泉税の免除
※2017年4月度以降の軽減税率は8%に統一され、上記金銭貸借の航空会社要件もまた撤廃される予定。
– アイルランド内外の航空会社に航空機をリース(原則として当該航空機はアイルランド外で利用)して稼得する所得に対する優遇税率が12.5%;並びに、
– 航空機の受取リース料(原則として当該航空機はアイルランド外で利用)に対するVATは発生しない。
※航空機のリースが主たる事業ではなく、受動的な収入と判断される場合は、課税所得に対し25%の税率が課されることとなる。
優遇税率 16.5%→8.25(1.65)% 17%→10(5)%→8% 25%→12.5%

政府当局は、BEPSに起因する国内市場の分離要因を排除し、さらにはファイナンスリース取引を除外し、香港企業が当該リスクを負担することで、有害な租税慣行からの脱却の狙いがあると考えられますが、実際のリース取引は、SPCが航空機を購入しリースするだけ、という形態では済まず、複雑な構造が多々見られる可能性があるため、後日発表される予定である香港税務局による実務解釈指針(Departmental Interpretation and Practice Notes、DIPN)が待ち望まれます(※当記事は2017年10月1日時点のもので、当該DIPNは2017年10月27日付で発行済みです)。

以上、香港における税制適格航空機リース事業に対する優遇制度(ALTC)に係る勘案すべき項目を取りまとめ解説しました。航空機リースの需要は、近年世界的に拡大の一途を辿っており、特に格安航空会社(Low Cost Carrier、LCC)の運航拡大により、日本はもちろん、中国やロシアでの需要は、その中でも近い将来非常に大きなものとなると期待されています。上述の節税面はもちろん、地理的にも大きなアドバンテージがあり、国際金融センターや国際物流拠点としてのインフラが整備されているここ香港は、さらに多国籍企業のグループ会社の地域及び事業統括拠点として魅了し、合わせて専門人材に対する需要が拡大することが期待されます。専門家との相談を取り入れながら、逐次グループ事業統括体制を検討して頂ければと存じます。