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香港・裁判所の認可を要しない合併に係る税務 – 更新版

裁判所の認可を要しない合併

1. 香港における新会社条例(第622章)下での裁判所の認可を要しない合併手続による、税務上(法人利得税)の取扱いは、税務上の優遇措置を目的としたものではなく、香港における特定の私的会社買収関連の条例と外国法の下で実施される事業承継のそれと比較し、異なる可能性がある。

2. 以降の段落で表記されている「存続会社」とは、新会社条例中の第680条合併(垂直合併)における合併持株会社、並びに第681条合併(水平合併)の際に株式が消却されない合併会社、を指し、その一方で「消滅会社」とは、存続会社以外の各々の被合併会社を指している。

3. 税務局局長が、当該裁判所の認可を要しない合併手続が税務上の優遇措置を目的としないことを容認する場合、税務条例第61A条もしくは第61B条における各規定は、当該合併に適用されず(例えば、消滅会社の税務上の繰越損失は存続会社に引継がれない)、当該存続会社は、税務条例上で可能な限り一般的に、それ自体の継続及び消滅会社の継続として取扱われる。

4. 税務局は、裁判所の認可を有しない合併に関連する問題点に対処するための法的な枠組みを提供すべく、税務条例上の条項の改訂を検討しているため、現在のところ、税務調査官は下記の慣例に従い、査定するものとする。

資産の売却をともなう合併

5. 裁判所の許可を要しない合併が、独立起業間価格での資産の売却をともなう場合は、如何なる営業収入と見受けられる入金も査定し、該当する資産が認識されていた残高を調整する計算をするため、資産の売却に関連する税務条例上の条項が適用される。

資産の売却をともなわない合併

6. 消滅会社は、合併直前の日に次の通り見なされる:
– 商取引、専門業もしくは事業活動を停止しており;かつ
– 公開市場における棚卸資産の現金化が実現している。

7. 存続会社は、合併日に次の通り見なされる:
 消滅会社の商取引、専門業もしくは事業活動を承継する形で継続している;
 関連する利権を取得することで、商業・産業建物もしくは構築物に関連する年次償却を税務上享受できるが、それまで消滅会社が享受してきた税務上の減価償却費の総額を超えない範囲で、除却時のバランシングチャージ(税務上の減価償却費の戻入れ)が課される;
 機械設備に関連する年次償却を、税務上の残存価額を考慮の上享受できるが、それまでに消滅会社が享受してきた税務上の減価償却費の総額を超えない範囲で、除却時のバランシングチャージが課される;
 税務条例第16B、16E、16EA、16F、16G及び16Iの下、消滅会社によって拠出された資本的拠出に関連する如何なる控除可能な項目を享受できるが、それ以降の販売時の利益は、営業収入として課税される;
 当該合併がなければ、消滅会社がその後享受していたであろう控除項目を享受できる;並びに
 当該合併がなければ、消滅会社がその後稼得していたであろう収益及び営業収入を認識する。

8. 存続会社は、その合併が起こる査定年度に、商業・産業建物もしくは構築物、及び機械設備に関連する年次償却、並びに税務条例第16B、16E、16EA、16F、16G及び16Iで規定される免税項目や控除項目を税務上認められる。そのような免税項目及び控除項目は既に存続会社で享受されるため、同じ査定年度において、消滅会社は享受できない。

税務上の損失

9. 税務上の損失は、当該損失を被っている法人のみに帰属し、他のグループ会社への移転は認められない。グループ会社間での税務上の損失に係る優遇措置や、当該合併から発生する損失に対する控除は、認められない。

10. 下記の条件に該当する場合、存続会社の税務上の繰越損失は、消滅会社から引継いだ事業に関連する利益に対し、相殺することができる:
 合併を実施しないにしても、当該存続会社が商取引や事業を進めるに十分な財務資源(グループ内の金銭消費貸借は除く)があり(財務資源テスト);
 当該存続会社が、合併発効に至るまで、商取引や事業を継続しており(継続経営テスト);並びに
 対象となる損失が、消滅会社と存続会社が同じグループ内の100%子会社(兄弟会社も含む)となって以降、発生しているものであること(グループ参画後テスト)。

上述すべての条件が満たされない場合は、存続会社による商取引や事業を源泉とする利益に対してのみ、税務上の損失を相殺できる。

11. ここで「財務資源」という表現は、広義的で資本、流動資産や現預金を含む。財務資源テストを適用する際、信用格付け審査する独立した第三者から資金を調達するため、存続会社の返済能力を考慮する必要がある。

12. 消滅会社による税務上の繰越損失は、消滅会社より承継した同一の商取引や事業から発生する存続会社の利益とのみ、相殺することができる(同一事業テスト)。

13. 「同一の商取引や事業」の中の「同一」とは、近似性ではなく、同一性を示唆しており、つまりは同一の商取引や事業を指している。最終的な分析結果は、個々の事実関係を確認した上で決定される問題であるが、これについてはWalton J in Rolls-Royce Motors Ltd v Bamford [1976] STC 162の判例を参考にすることができる。同一事業テストを適用する際、対象となる査定年度において、消滅会社が被った税務上の損失があり、当該損失と相殺され得る存続会社の利益が発生している中で、実際に従事していた各々の商取引や事業を比較する必要がある。

例1
香港において設立された法人1と法人2は、ともに某持株会社の100%子会社である。法人1は、セントラルにユニークな日本食を提供する高級レストランを所有し、運営していた。当該レストランの名称は、その日本食のスタイルを反映したもので、法人1の商標も登録されていた。法人2は、ワンチャイに大衆的なイタリアンレストランを所有し、商標を登録した上で運営していた。法人1は損失を被った。法人1と法人2は、会社条例第681条に従い合併し、法人2が存続会社となった。

もし法人2が、当該合併後即座に日本食レストランが運営されていた店内を、イタリア料理を提供する店舗に変更し、元々運営しているイタリアンレストランの商標を使用しているとしても、同一事業テストはクリアできない。当該合併後に運営されている事業が、当該合併直前に運営されていた事業と同じであるか否かという疑問に対する答えは、実際のところ、第2店舗目のレストランの事業が、第1店舗目のレストランの事業にどれだけ近似しているかに起因する。イタリアンレストランを開店することは、日本食レストラン事業の延長線上としては通常捉えられない。第二店舗目が全事業の半分を占めると仮定すると、税務上の繰越損失の相殺を申請された査定年度において、当該合併前に運営されていた同一の事業であるが拡大されたものとして、その事業を捉えることは困難である。

もし法人2が、当該合併直後より、日本食レストランとその商標を、以前と同様に所有し運営を継続したが、元々から運営しているイタリアンレストランの商標を用いて、その店内の半分をイタリア料理も提供する場所に変更したところ、同一事業テストがクリアできると考えられる。つまり、法人1から継承された税務上の繰越損失は、法人1から引継がれた日本食レストランを源泉とする法人2の事業所得と相殺することが可能であるが、2件のイタリアンレストランから発生する事業所得とは相殺できない。

例2
香港において設立された法人3と法人4は、ともにアメリカの某持株会社の100%子会社である。法人3と法人4は、同じ商品を販売していたものの、各々異なる地域の顧客へ販売していた。法人3は、大中華圏における客先と取引をしていた一方で、法人4は、アセアンの国々における客先へ販売していた。法人4は損失を被った。法人3と法人4は、会社条例第681条に従い合併し、法人3が存続会社となった。

法人3と法人4は同じ商品を販売していたため、もし継続される運営モデルに依然と大きな違いがなければ、同一事業テストがクリアできると考えられる。当該合併後の大中華圏における顧客への販売は、自ずと成長を遂げた結果として、法人4の事業が発展したものとして取扱いを受ける、法人4から継承された税務上の繰越損失は、当該合併後の法人3の課税所得と相殺が可能である。

例3
法人5は、某持株会社の100%子会社であり、九龍における住宅用地を購入、開発し、建設後の住宅を販売する目的で香港に設立された特別目的会社(SPV)である。法人6は、同じ持株会社のもう1つの100%子会社であり、九龍における住宅用地を購入、開発し、建設後の住宅を賃貸する目的で香港に設立された特別目的会社である。法人5は、その住宅用地に建設された住宅建物内の全ての部屋の販売を完了した後、巨額の損失を被った。法人5と法人6はその後合併し、法人6が存続会社となった。当該合併は、会社条例第681条に従い実施された。当該合併が完了した時、法人6は賃貸収入を稼得するために、その住宅用地に1棟の住宅建物を建設し、その住宅部屋を賃貸した。当該合併後の同一事業テストはクリアできない。賃貸収入を稼得するため、住宅建物を開発し所有する事業は、住宅部屋の建設及び販売から発生する販売利益のそれとは異なっていた。法人5が住宅部屋販売において被った税務上の繰越損失は、当該合併後の法人6の課税所得に対する相殺に利用できない。

14. 合併後に利用できると考えられる税務上の損失について、金額的に重要性が高い場合や、財務資源テストや同一事業テストの適用が不明瞭な場合は、消滅会社と存続会社は、税務条例第88A条の下、事前裁定を申請するか否かを慎重に考慮すべきである。

法人利得税申告書

15. 存続会社は、合併日から1カ月以内に、当該合併について書面で税務局局長へ通知する必要があり、消滅会社がその事業を停止したと見なされる日における年度査定のため、前会計年度の直ぐ翌日から、合併が発効する直前の日までを網羅している、公証済み財務諸表と合わせて、法人利得税申告書を提出しなければならない。

権利義務

16. 存続会社は、消滅会社が被るすべての義務を保証しなければならず、特に会計記帳に係る要件、申告要件及び必要資料提出要件に従う必要があり、消滅会社がその事業を停止した査定年度とそれ以前の全ての過年度に関し、確定的もしくは偶発的にかかわらず、責任があるものと見なされる。

原文、2016年12月16日更新 [7]