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[中国会計税務] 実務基礎知識2(監査報告書の基礎知識2)

 2015年度の決算が出て、企業によっては既に監査を受けているところもあるかと思われます。企業が行った決算と監査報告書の相違に頭を悩まされることもありますが、監査報告書の目的を紹介した以下の内容を参考に頂ければ、多少は解決するかも知れません。今月も、監査報告書で記載される事柄について書かせて頂きます。

■ 財務諸表注記

 監査報告書には、企業情報や会計処理基準、及び年間取引の概要数値が記載される財務諸表注記が必ず存在する。これは、監査報告書の閲覧者が、企業財務内容の内容をより理解出来るため、財務諸表の作成原則や主要勘定項目の状況を説明するための附随資料といった意味合いが強く、先月に紹介した「監査報告」と比べると様式に厳格な決まりがないため、監査を行う会計事務所により表記や形式が異なる。但し、条例規定において最低限必要な記載内項目は以下のように定められているため、内容が大きく変化することはない。

① 会計公準に関する説明
② 主要な会計方針や会計上の見積り、及びその変更に関する影響
③ 偶発事象や後発事象の説明
④ 関係会社情報やその取引内容
⑤ 重要な資産譲渡や売却
⑥ 企業合併や分割
⑦ 重大な投資や融資活動
⑧ 財務諸表上の重要項目に関する明細資料

① 会計公準に関する説明
 企業実態、会計期間、及び貨幣評価といった会計の基準に関して説明がなされます。
② 会計方針や見積り
 中国の会計準則でも、処理方法決定が企業に委ねられる、固定資産減価償却や貸倒引当といった会計方針や見積に関して、企業がどのような基準を以って財務諸表を作成したかを明確にします。
③ 偶発事象や後発事象
 監査は、期日(西暦1月~12月)を対象として行いますが、翌年度以降の損益に関係すると思われる貸倒引当や評価損も可能な限り計上して財務諸表を作成します。但し、発生可能性が高くないと想定される内容(訴訟による損害賠償可能性)等については、引当金の計上が認められませんが、株主等への報告事項として状況を説明する場合があります。また、決算期間が終了してから監査報告書発行までに発生した重大事項(企業再編の発表や主要取引先の倒産等)についても、後発事象として報告することがあります。
④ 関係会社取引
 親会社や子会社等の関係会社関係や取引内容が記されます。移転価格の問題もありますが、会計規定においても関係会社取引を報告することが義務付けられています。
⑤ 重要な資産取引(資産譲渡や合併、投資等)
 会計決算期間中に発生した投資や合併等の取引を報告書で明確に記録します。
⑥ 重要項目に関する明細資料
 貸借対照表や損益計算書の勘定科目に関する明細内容となります。監査人が重要と判断する項目となりますので、金額が大きく財務状況や損益に重大な影響があったと思われる内容が報告されます。

■ 企業所得税計算書

 監査報告書は、会計規定に基づいた決算に対する意見書であるため、本来は企業所得税の計算を載せる義務はないが、企業が実施する企業所得税確定申告の補助資料として企業所得税の計算資料が作成されることが多くある。基本的な様式としては、監査報告書で算出した当期純利益に対して、税法で調整が必要な金額を調整して、企業所得税確定申告での利益総額を計算することが一般的である。なお、税務調整の項目としては以下の内容が挙げられる。

① 引当金
 貸倒引当金や資産評価損引当金は、企業が独自の判断で損失額を見積り、監査においても会計事務所により妥当性を判断された上で、損失計上が行われます。但し、税法に規定される判断基準(実際の取引先倒産、或いは資産売却に拠る損失等)と異なる場合があるため、その際には損金を調整して税法規定に基づく利益総額を算出します。
② 福利費や接待交際費の調整
 福利費は人件費の14%、接待交際費は売上高の0.5%(及び、発生額の60%)が企業所得税法規定に定められた上限となり、当該金額を超過した費用は、企業所得税計算における損失とは認められないため一定の調整を行う必要があります。
③ 固定資産や費用の償却期間
 税法で定められた最低償却期間より短い期間で減価償却等が行われる固定資産等については、企業所得税法規定に依る期間での再計算を行って償却費を算出の上で利益額を導きます。
④ その他
 その他、行政機関へ支払った罰金や過料、発票が取得されない費用、過大に計上した賞与引当金、見做し売上とされる贈与や寄付等が主な調整項目となります。