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中国における事業再構築入門第8回(資金調達4)

今回も、前回に引き続き、中国国内における日系現地法人の資金調達スキームについて取り上げます。

中国においては、人民元に関する総量規制や外貨規制等、資金調達に関して様々な制約があり、日本本社の思い通りにいかないケースが多々あります。また、日本と違い、当局への申請手続および審査において、一定の期間を要するため、ある程度ゆとりをもった資金計画を策定しておくことがポイントとなってきます。

日系現地法人の資金調達スキームとしては、(1)グループ内金融(2)増資(3)外部借入(4)その他に分類できます。表1参考。今回は増資について解説します。

(1) 増資とは
増資とは、簡単にいうと、資本金を増やすことを言います。一般的に、日系現地法人は日本親会社から増資を受けるケースが多いですが、関連会社や第三者からの増資も可能です。増資金額はあくまで返済が必要な負債ではなく現地法人の自己資本の一部となりますので、借入と異なり返済義務はありません。よって、事業規模拡大や設備投資等の長期的な資金ニーズに適したスキームです。また、日系現地法人が増資を行う場合、「登録資本金」が増加することにより、「総投資額」を拡大させることが可能です。よって、増資を行えば「投注差」(※)も拡大することができます。

※ 投注差とは
中国においては、外資企業を設立する際、「総投資額」と「登録資本金」を登記する必要があります。登記された「総投資額」と「登録資本金」の差額が「投注差」となります。ここで、「総投資額」とは事業に要する運転資金と設備資金の総和、「登録資本金」とは親会社からの実際の払込額であり、過少資本を防止するため、「総投資額」に応じて「登録資本金」の最低比率が設定されています。なお、「総投資額」と「登録資本金」は、批准証書に記載されていますのでチェックしてみてください。

表1 日系現地法人の資金調達スキーム

グループ内金融 親子ローン
委託貸付
増資 親会社からの増資(第三者からも可能)
外部借入 日系現地金融機関からの直接融資
ローカル金融機関からの直接融資
その他 セールス&リースバック
ファクタリング

(2) 増資手続き
日系現地法人が増資を行う場合、新規設立時とほぼ同様の申請・認可が必要であり、順調に手続きが進んだとしても、最低2-3ヶ月の期間が必要です。この点、親子ローンや外部借入と比較すると、手続きに時間がかかると言えます。

手続きの流れですが、まずは、社内で董事会または株主会決議が必要となります。とくに中国系との合弁会社の場合は、董事会に出席したメンバーの全員一致の決議が必要となるため留意が必要です。具体的な手続きの流れは、表2のとおりです。

表2 増資手続きの流れ
1. 董事会または株主会の決議

2. 商務部門の審査認可

3. 外貨管理局の審査認可

4. 出資の払込み

5. 会計士事務所による出資検査報告の作成

6. 工商登記変更手続き

(3) 増資のメリット・デメリット
① メリット
 借入と異なり、日系現地法人の金利負担が発生しない。
 外債に該当しないので、中国における外貨管理規定の制限を受けない。
 返済義務がないので、長期的な資金調達に資する。
②  デメリット
 借入と比較すると、手続きに時間がかかる。
 親会社が投資した資金は、投下資本回収手段が限られている。
(基本的には、配当として回収することになる。)
親子ローンと増資どちらがよいかといったご質問がクライアント様からよく寄せられますが、資金調達目的、「投注差」の問題やスケジュール等を総合的に勘案して決定していく必要があります。