香港 香港会計税務

[香港会計税務] 2014/2015年度香港予算案税金措置

香港財政司司長の曾俊華(John Tsang Chun-wah)は、2014年2月26日(水)に発表した2014/2015年度予算案の中で、税金措置を提案しています。ここでは、香港行政長官の梁振英(CY Leung Chun-ying)により、2014年1月15日(水)に立法会にて発表された施政報告(Policy Address)の中で、香港市民の高齢者、低所得者や障害者への支援、一般市民の健康維持を含む生活向上並びに次世代育成などに触れていた通り、父母祖父母の扶養、子供の教育、及び自己価値の向上に係る費用や、中小企業が直面している給与賃金や賃借料が増加していることによる圧力に対抗した内容である、と言及しています。その中で当該税金措置の個々の項目について下記の通り解説します。

1. 2013/2014年度の利得税(法人及び個人事業)、給与所得税及びパーソナル・アセスメントでの所得税額の軽減措置

前年度と同様、2013年4月から2014年3月の税年度期間に課される利得税(法人及び個人事業)、給与所得税及びパーソナル・アセスメントでの所得税額の確定額に対し、10,000香港ドルを上限とする75%の減税措置を提案しています。当該減税措置は資産所得税そのものには適用されず、別に賃貸所得がある個人は、パーソナル・アセスメント申告資格を満たしていれば、当該減税を享受できます。事業所得がある納税者は、パーソナル・アセスメントを選択するか否かにかかわらず、当該減税を享受できますが、通常の利得税申告とパーソナル・アセスメント申告との間で、減税額が異なる可能性があるため、案件毎に査定される必要があります。事業所得や賃貸所得がある個人は、各々の個人所得税申告書でパーソナル・アセスメントを適用するか否かを選択でき、税務局は、当該選択が納税額の負担を減らすことができるかどうか案件毎に個別に確認し、最も有利な方法で査定します。

ここで、パーソナル・アセスメントとは、個人で給与所得以外に事業所得や賃貸所得がある場合に、それらの所得、関連する経費及び控除額を合算で勘案し、個々に税額を計算した場合と比較することで、最終税額に差が発生する場合は、どちらか有利な税額が適用される、という総合課税制度です。例えば、ある個人のケースで給与所得があるものの、税務上の事業所得はマイナスである場合、当該給与所得から当該事象所得のマイナス分を差引くことができ、さらに給与所得税計算に適用される各種控除項目も差引くことができるため、当該給与所得満額に対し給与所得税を課され、単に事業上の利得税が発生しないケースよりも最終納税額が減少することになります。また、その適用資格は、18歳以上(例外として、両親が既に亡くなっている場合は18歳未満でも可)で、かつ香港居住者(1税年度期間中に180日を超えて香港に居住、もしくは2税年度期間中に300日を超えて居住、ただし、後者の場合は当該2税年度期間中の1税年度期間だけ適用可)であることとされていますので、日本やその他の外国居住者とみなされる個人は、香港源泉の給与所得と事業所得や賃貸所得があるとしても適用できません。

<表1> パーソナル・アセスメント計算例

2013/14年度事業損失が100,000香港ドル、給与所得が400,000香港ドルあった場合 適用時
香港ドル
不適用時
香港ドル
給与所得 400,000 400,000
事業所得(損失) (100,000) 0
減算:基礎控除 (120,000) (120,000)
課税所得(※累進幅については表2参照) 180,000 280,000
所得税額(※累進税率については表2参照) 18,600 35,600
税額控除 (10,000) (10,000)
確定税額 8,600 25,600
繰越利益(損失) 0 (100,000)

なお、当該措置は香港税務条例の改正により有効となり、立法会による承認をもって、税務局は税額査定時に税額控除を適用します。利得税については、当該上限額は事業毎に適用され、給与所得税については、当該上限額は個々の納税者に適用されますが、夫婦共同で税額査定の場合、当該上限額は夫婦毎に適用されます。パーソナル・アセスメントの場合、独身の納税者は個々に当該上限額を享受できますが、夫婦の場合は、パーソナル・アセスメントを一緒に選択する必要があり、当該上限額は夫婦毎に適用されます。

給与所得税と利得税が別々に課税される納税者は、各税金に対し税額控除を享受することができます。パーソナル・アセスメントを選択する場合、給与所得税、利得税および資産所得税の課税対象額は集計され、納税額が計算されますので、この納税額に基づき、税額控除が適用されます。パーソナル・アセスメントの適用が可能である場合、納税者は個人所得税申告書(Form BIR60: Individual Tax Return)の項目6に記入する必要があります。なお、給与所得のみで、事業所得や賃貸所得のない個人が、パーソナル・アセスメントを選択することは不要です。

当該減税措置は、2013/2014年度の納税額を減額することになります。納税者は、来る4月と5月にそれぞれ発行される利得税申告書と個人所得税申告書を、通常通り申告する必要があります。税務局は、関連法規の改正時に最終査定税額に対し、税額控除の適用査定を実施します。既に納付されている過払税金は、2014年7月下旬以降から払戻しが開始される見込みです。これに対し、納税者は税務局に別段の申請や照会をする必要はありません。

当該減税措置は、2013/2014年度の最終査定税額にのみ適用され、同年度の予定税額には適用されませんので、納税者は、提案された控除の有無にかかわらず、2013/2014年度の予定税額を期限通りに納付する必要があります。納付済みの予定税額は、2013/2014年度の確定税額と2014/2015年度の予定税額納付時に適用され、万が一過払い税金がある場合は、還付されます。

2. 父母祖父母扶養控除及び介護老人福祉施設控除額の上限増額措置

老人介護を含む父母祖父母扶養費の負担軽減のため、2014年4月から2015年3月の税年度期間に課される給与所得税計算時に、①60歳以上の父母祖父母もしくは障害者一人当たりの扶養控除額を、現行の38,000香港ドルから40,000香港ドルに増額、並びに55歳以上60歳未満の父母祖父母一人当たりの扶養控除額を、現行の19,000香港ドルから20,000香港ドルに増額する減税措置を提案しています。また、同居の場合は、上述控除額の二倍控除可能とされています。さらに、②介護老人福祉施設控除額を現行の76,000香港ドルから80,000香港ドルへの増額も提案しています。

関連法規の改正後、税務局は自動的に、新しい父母祖父母扶養控除額を2014/2015年度の給与所得税予定税額の計算時に適用するとしています。父母祖父母扶養控除の適用資格を持つ納税者は、2013/2014年度の個人所得税申告書を申告することのみが必要となり、増額後の当該扶養控除に対して別途申請する必要はありません。

<表2> 給与所得税累進税率

評価年度 現行(2013/14年度) 暫定案(2014/15年度)
40,000香港ドルまで 2% 2%
40,001から80,000香港ドルまで 7% 7%
80,001から120,000香港ドルまで 12% 12%
120,001香港ドル以上 17% 17%

<表3> 課税所得控除額一覧

評価年度 現行(2013/14年度)
香港ドル
暫定案(2014/15年度)
香港ドル
基礎控除(独身) 120,000 120,000
基礎控除(既婚者) 240,000 240,000
寡婦(夫)控除 120,000 120,000
子供扶養控除
 第1子から第9子まで各一人当たり 70,000 70,000
 誕生年の場合の控除加算 70,000 70,000
兄弟(姉妹)扶養控除 33,000 33,000
父母祖父母扶養控除(納税者と同居/別居)
 父母祖父母扶養控除(60歳以上及び60歳未満かつ障害者) 76,000/38,000 80,000/40,000
 父母祖父母扶養控除(55歳から59歳まで) 38,000/19,000 40,000/20,000
障害者扶養控除 66,000 66,000
自己学習費用控除(限度額) 80,000 80,000
住宅借入金控除(限度額) 100,000 100,000
MPF自己負担積立控除(限度額) 15,000 17,500
介護老人福祉施設控除(限度額) 76,000 80,000
慈善団体寄付金(限度額) 課税所得の35% 課税所得の35%

3. 上場投資信託(ETF: Exchange Traded Fund)への印紙税免除措置

2010年より現在に至るまで、香港株式の構成比率が40%を超えないインデックスから構成されるETFの売買取引に対する印紙税は、特例措置で免除されていますが、当初69銘柄であったのが現在は116銘柄となり、日々の売買回転率も1.5倍以上となっている現況に鑑み、今回の予算案では、すべてのETFへの印紙税免税措置を提案しています。

4. 電気自動車(EV: Electric Vehicle)の車両登録税免除措置の延長

1994/1995年度の初めての施行より、これまで4度に渡ってEVの車両登録税免除措置を延長してきましたが、2020年までにユーロ4規制に対応しない82000台の商用ディーゼル車すべての撤廃を目指し、2013/2014年度よりさらに3年間当該措置を延長することを提案しています。

5. その他の免除措置

2014/2015年度については、①不動産税の課税対象となる不動産毎に課される不動産税額に対し、最初の第2四半期までのみ最大1,500香港ドル(年間合計3,000香港ドル)を免除、②公共団地の家賃1カ月分(高齢者に該当しない場合は家賃1カ月分の三分の二)の免除、並びに③総合社会保障援助手当、高齢者手当、高齢者生活手当及び障害者手当の1カ月分を追加支給、などを提案していますが、前年度のそれらと比較し、①及び②は半減し、さらに商業登記料(事業登記料)の免除や各家庭の電力使用料への政府補助(前年度実績としては毎月150香港ドルで年間合計1,800香港ドル)が廃止となっています。

6. プライベート・エクイティ・ファンドに対する利得税額免除の検討

2013/2014年度における予算案の免税措置の中で、従来のオフショア・ファンドに対する利得税免除範囲を拡大し、香港外で設立もしくは登記され、香港内の資産を所有しておらず、かつ、香港内で事業を行っていない私的会社の取引も含めることが提案され、プライベート・エクイティ・ファンドがオフショア・ファンドと同様の課税免除を享受することが許容されるとされましたが、現況として、行政機関による各業界団体に対する、当該措置に係る関連法規の改正や提案詳細に係る諮問を完遂しており、当該関連法規の枠組みが完成、第二段階として当該枠組みについて諮問を実施するとしています。

7. 海外へ支払う支払利息の損金算入基準の検討

多国籍企業が地域統括、もしくは全世界の関連会社に対するファイナンス機能を有する法人を設置するここ香港では、海外の関連会社へ支払う利息は、原則として、税務上損金不算入となる点が、そのような法人を誘致する上で障害となっているとも揶揄されてきましたが、地域統括機能及びファイナンス機能を持つ法人の誘致をさらに促進するため、これから一年以内に税務条例上の支払利息の損金算入基準を見直し、当該基準を明確化するとしています。

8. 適格保険商品購入に係る税制上の優遇措置の検討

香港市民の高齢者、低所得者や障害者への支援、一般市民の健康維持を含む生活向上を掲げている中で、適格保険商品の購入者に対し、税制上の優遇措置を検討することにも言及しています。

以上が提案された2014/2015年度香港予算案の中の税金措置ですが、ここでは割愛している税金措置以外の内容も考慮すると、財政司司長は、将来少子高齢化による労働力減少を発端として、構造的に財政赤字に陥る可能性を示唆した、長期的な経済発展を目指していることがうかがえるものの、一方で2013/2014年度の税金措置と比較して、香港市民の直接的に享受できる恩恵が微減していることは明白であり、当該予算案の発表後、香港市民や立法会内部からは、そもそも先に香港政府自体のコスト管理に対し、強固に取組む姿勢が必要ではないかなど、多くの不満の声が挙がっています。また、香港の財政予算案が立法会で最終可決される時期は、発表後翌月の3月から5月の間が通常ですが、2014年4月8日までに民主派による2000項目弱にも及ぶ修正案が現在提出されており、最速でも5月末、遅ければ7月まで最終可決が延びる可能性も懸念されていますので、今後の動向にも留意が必要です。