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[監査入門] 監査人は誰にお願いすればいいの?

香港・中国ではすべての会社に監査が義務付けられているため、必ず「監査人を選ぶ」という手続きがでてきます。ただ、そもそも監査になじみのない人が監査人を選ぶって言っても、正直見当もつきませんよね?そこで今回は監査人を選ぶ際のポイントを述べてみたいと思います。

まず、監査人は大きく分けて、大手、中堅、個人事務所の3つのグループに分けられます。大手とは、一般に「ビッグフォー」と呼ばれる監査人でPwC、KPMG、E&Y、DTTの四大会計事務所を指します。これらはほとんどの国にメンバーファームがあり、国際的なネットワークを持っています。また監査人としてのブランドは最も高く、決算書の利用者から高い信頼性を得ている一方、監査報酬も最高クラスです。逆に個人事務所とは、個人の会計士が少数のスタッフを使って経営しているところですので、ブランド価値は全くありません。監査人は必ず監査基準に準拠している監査を行うため、最低限の保障水準は確保しているはずですが、実際は監査人の能力や判断によって保障水準にバラつきも見受けられます。その代わり、大手と比べると固定費などが圧倒的に違いますので、監査報酬は最低クラスで済みます。中堅は、その間と考えていただければ結構なのですが、会計事務所によってはかなり個性的な特徴を持ちます。例えば、その国においては大手並みのブランドを持つ一方国際的には無名だったり、大手の地位を虎視眈々と狙って規模の拡大を図っているものや、筆者の所属する会計事務所のように主として日本企業向けに特化しているものなど、さまざまです。

監査人のグループ分けが分かったところで、会社の規模別に監査人を選ぶポイントへと進んでいきますが、その前に、これまでの連載を読まれた方は、「監査は監査の専門家として認められた公認会計士が監査基準に準拠して行うのだから、誰にお願いしても結果は同じなんじゃないの?」「そうならば、監査報酬が安いところに頼むのがベストじゃないの?」という疑問をお持ちかもしれません。これは理屈的には全くその通りなのですが、実際には監査人の中にも優秀じゃなかったり倫理観のなかったりする者がある一定数はでてきます。これらの者はいずれは重大な誤りや粉飾を見逃したりして淘汰されていく運命なのですが、ある時点で見てみれば残念ながらやはり一定数は存在すると考えざるを得ません。つまり、監査報告書の利用者からすれば、ブランドのない無名の監査人よりは、過去の長い監査経験で大過なく実績を残し、淘汰されてきた大手監査人の方がより信頼できる、という結論になっても不思議ではないのです。

それでは、会社の規模別に監査人を選ぶポイントを見ていきましょう。

(1) 監査報告書を社外に提出する予定のない会社(言葉の心配が全く無い場合)
監査は法律上義務となっているので仕方なく受けるという場合で、監査人との意思疎通にも問題がないというのであれば、価格競争の世界です。ローカルの個人事務所から何箇所か見積もりをとって、一番安いところを選びましょう!

(2) 監査報告書を社外に提出する予定のない会社(言葉の心配がある場合)
監査は法律上義務となっているので仕方なく受けるという場合であっても、監査人との意思疎通が難しい場合には、個人事務所から中堅の間で日本語サポートが充実しているところを選びましょう。ただ監査や会計の話となると、日本語で言われても専門外でよく分からん、という人も多いと思いますので、単なる直訳ではなくその意味合いについても説明してもらえるところを選ぶといいでしょう。

(3) 監査報告書を社外に提出する予定のある会社(非上場)
日本の親会社が上場していなくても、銀行に提出する場合や合弁先の親会社に提出したりする場合には、監査人に対してもある程度の信頼性を求めてきます。従って、中堅から大手などの中から、その国で評判の良いところを選びましょう。ただし、非上場企業であれば監査上の制約や要求も上場企業ほど厳しくないことから、コストとの兼ね合いも重要になります。

(4) 監査報告書を社外に提出する予定のある会社(上場)
日本の親会社が上場していると、単にその国で義務付けられている監査だけでなく、親会社の監査人から直接子会社の監査人まで直接いろいろな指示や要求がきますし、監査報告書の提出期限も格段に厳しい日程になることが通常ですから、大手クラスが必須となります。大手を選ぶのであれば一般的には親会社と同じ系列にしますが、その国で評判の良い大手・中堅であれば実務的には問題はないので、サービスにコストが見合わないと思えば必ずしも親会社の監査人のメンバーファームを使う必要はありません。

以上のように、最適な監査人は会社の規模によって変わってきます。ブランド・サービス・コストの三点から、会社の規模に応じて最適な監査人を選ぶことも総経理としての重要な仕事ですので、今日の連載がそのような判断の一助となれば幸いです。